Nスタイルホームは創業13周年を迎えました。
当社(宅建事業者A)が仲介し、その後別の宅建事業者Yが行った取引がトラブルになっています。
投資物件を所有するXは、当社の仲介により、所有する建物について、借主Zとの間で賃貸期間を1年間とする定期建物賃貸借契約を締結しました。ただ、同契約締結時に借地借家法第38条3項に規定されている説明書面(契約の更新がなく、期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨を記載した書面)を交付せず、期間満了時には、期間を1年間延長する旨の合意をし、その旨の覚書を締結しました。
その後、この建物と土地の購入希望者Dが現れたため、Xは、宅建事業者Yの仲介により、定期建物賃貸借契約の終了を前提に、土地建物の売買契約を締結したそうです。この契約には、売主の契約不履行により買主が契約を解除した場合には、売主は違約金800万円を支払う旨の条項が設けられていました。なお、Yは、XとZとの定期建物賃貸借契約について、借地借家法第38条3項規定の説明書面が交付されていないこと、期間満了時に期間延長の覚書が締結されていたことを知っていました。
Xが、定期建物賃貸借契約の終了をZに通知したところ、Zは、借地借家法第38条3項の説明書面が交付されていないったことを理由に定期建物賃貸借契約は効力を有しないとして退去を拒否。Xは、土地建物の売買契約について違約金の支払いを回避するために、Zに退去してもらうための解決金を支払いました。
その後、Xは、Yが定期建物賃貸借契約の効力を有しないという重要な事実をXに説明しなかったことを理由に、Zに支払った解決金相当額などの損害を賠償するよう請求したそうです。
Yは、定期建物賃貸借契約が無効であったことに起因する損害の賠償は当社に請求すべきであり、Yが責任を負うものではなく、損害を賠償する必要はないと主張しているそうですが、いかがでしょうか。
宅建事業者Yには説明義務違反が認められ、義務違反と相当因果関係のある範囲で、損害賠償責任を負うものと考えられます。
定期建物賃貸借契約とは、期間の更新がなく、期間が満了すると当然に終了する建物賃貸借契約です(借地借家法第38条)。
定期建物賃貸借契約を締結するには、賃貸人はあらかじめ賃借人に対し、定期建物賃貸借契約には契約の更新がなく、期間満了により契約が終了する旨を記載した書面を交付して説明しなければなりません(借地借家法第38条3項)。この書面は契約書とは別個独立の書面であることが必要であり、この説明がないと契約の更新がない旨の定めは無効となります(借地借家法第38条5項)。なお、賃借人の承諾があれば、この書面を電磁的方法により提供することができます(借地借家法第38条4項)。
また、定期建物賃貸借契約自体も、書面により契約することが必要となります(借地借家法第38条1項)。なお、これも書面に代えて電磁的記録によることも可能です(借地借家法第38条2項)。
定期建物賃貸借契約にあたっては、こうした借地借家法上の手続きを欠き、効力が認められないということにならないよう、注意が必要といえます。
宅建事業者が委任者に説明を行う前提として、調査を行う義務があるか否かが問題となる場合があります。
一般的には、宅建事業者が容易に知り得る事項や取引の状況を勘案すれば、宅建事業者が当然に調査すべきと考えられる事項については調査義務があると考えられます。
特に売買の仲介を行う場合、宅建事業者は、受任者として、売買契約が支障なく履行され委任者がその契約の目的を達成するために必要な事項について調査し、これを委任者に適切に説明する義務を負うものと考えられます。宅建事業者がこの義務に違反し、契約の目的を達成するために必要な事項について説明を怠った結果、委任者が損害を被った場合には、宅建事業者は、委任者に対し、損害賠償責任を負担すると考えられます。
本事例では、売買の対象となる建物に定期建物賃貸借契約とは評価されない賃貸借契約が存在しており、借主Zが退去を拒んだことにより、売主としての引渡義務が履行できない状況になっています。宅建事業者Yは、このような状況になることを十分に認識し得たはずなので、委任者であるXに対し、その説明をする義務を負っていたと考えられます。
よって、説明義務を怠り委任者に損害を被らせたYは、委任者であるXに対し、損害賠償責任を負担することになります。
本事例と同様、定期建物賃貸借契約とは評価されない賃貸借契約の存在を認識していた宅建事業者の説明義務違反を理由とする損害賠償責任の有無が問題となった事案(東京地裁 平成30年3月27日判決)でも、裁判所は、前記のような事情を踏まえ、宅建事業者は損害賠償責任を負担すると判断しています。
本事例では、Zとの定期建物賃貸借契約を仲介したのは、Yとは別の宅建事業者であるAでしたが、Yは、定期建物賃貸借契約の契約時に借地借家法第38条3項規定の説明書面が交付されていないことや期間満了時に期間延長の覚書が締結されていたことを知っていた以上、定期建物賃貸借契約とは評価されない賃貸借契約であることを容易に知り得たといえます。
従ってYは自らが定期建物賃貸借契約を仲介したのではないという理由で、調査・説明義務違反を免れることはできません。なお、Aは、宅建事業者であり、自らの不備で定期建物賃貸借契約の効力が認められないこととなっている以上、当然Xに対し、損害賠償責任を負うと考えられます。
仮に本事例で説明書面が交付され、定期建物賃貸借契約が有効であったとしても、Zが退去を拒んだ場合、XはZに対し、建物明渡請求訴訟を提起せざるを得なくなる可能性があります。宅建事業者としては、そのような可能性についてもあらかじめ委任者に説明し、万が一、Zが退去しなかった場合には、売主が売買契約を解約できる条項を設けるなど委任者がリスクを回避できるような対応をしておくべきでしょう。
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