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賃貸のお困りQ&A

貸店舗での無断改装工事や近隣騒音等への不十分な対応が信頼関係の破壊に当たるとされた事例

今回のケース

個人である貸主Xは、自身は所有する軽量鉄骨2階建て建物の1階部分について、宅建事業者Aの媒介により、コインランドリー営業を目的とした借主Yとの間で令和元年12月に賃貸借契約を締結しました。

同契約では、期間2年、賃料17万5,000円で、「賃借人が原状を変更しようとする時は、その内容、方法につき書面をあらかじめ賃貸人に提出し、書面による承諾を得ること」となっていました。

Yは、コインランドリー機器の設置および運営管理を法人Bに委託していました。Bは、本契約の半年前にYとは別の依頼で本物件を内見していましたが、その際に、物件をコインランドリーとして使用するためには、既存の建物北側外壁の排気口を拡幅すると構造や排気上の問題があるので、東側外壁に新たに穴を開け排気口を設置するのが良いと考え、Aに照会していました。その際Aは、「図面を提出してもらった上でXに確認する」と答えていました(その後Bからの図面の提出はありませんでした)。

なお、本契約と同日に建物内部のレイアウトがBからAに送付されましたが、排気口の位置の記載はありませんでした。

令和2年1月、BはAに内装工事の開始と、北側外壁の排気口の利用などを記載したメールを送信しました。それを聞いたXは、「すでにある穴を利用して吸排気口とするのは問題ない」とBに回答しましたが、Bは東側外壁に穴を開けることが分かる資料を送付しないまま工事を完了しました。

同年2月、コインランドリーは営業を開始しました。建物2階を賃借していたCが、機器の振動・騒音に驚き、設置状況の確認をBに要請。さらに、東側外壁に設置された排気口から熱気、綿ゴミ、埃などが通路へ排出されていることが目立つようになり、CはBに苦情を申し立てました。現場確認を行ったBは、「機器の設置方法に問題ない。建物の構造上振動や騒音を完全になくすことは不可能」として、機器の回転数を下げ、深夜営業を中止することを提案しました。

この提案に対してXは、東側外壁に排気口が開けられていて驚いたこと、振動・騒音は防止装置が付いていないことが問題であるとしたメールをBに送りました。

同年5月、X、Y、A、Bによる話合いが行われ、その後も対応策が協議されましたが状況は改善されず、Cからの苦情は継続しました。

Xは、令和3年1月、Yの債務不履行による信頼関係の破壊を理由として本件契約を解除したと主張。建物の明渡し、約定違約金(賃料および共益費の6カ月相当額:105万円)等の支払いを求める本件訴訟を提起しました。

解説

裁判所は次のように判示し、Xの請求を認容しました。

(1)Y・Bは工事内容を伝えず、書面による承諾も受けていない

Yから委託を受けてAとの交渉等を行っていたBは、賃貸借契約で建物部分の内装工事等を行う場合には、あらかじめ工事内容等が分かる詳細を記載した書面をXに提出し、書面による承諾を得なければならないことを認識し、実際に工事内容の分かる資料の提出を求められていた。にもかかわらず、工事内容をXに伝えようとせず、書面によるXの承諾も得ていない。それだけでなく、工事により建物東側外壁に穴を開けて排気口を壁の外側に設置することについて事前にXに承諾を得たと強弁し、Yはこれを前提に排気口の移設を求めるXの要請をたびたび拒んでいることが認められる。

(2)X・Aはたびたび改善を求めるも、振動・騒音について被害が生じ続けている

排気口が建物部分の東側外壁に設置されたため、排気口から排出される熱気、綿ゴミ、埃、臭いなどが通路に排出され、その通路を通ってしか外に出られないCが迷惑を被っている旨をたびたび訴え、Xもたびたび改善を求めた。しかし、Y側は、機器の回転数を下げたり清掃をしたり、深夜営業を停止したり店内に注意書きをしたフィルターを設置したりするなどの対策を講じた旨述べるにとどまっており、しかも、被害はその後も生じ続けていることが認められる。

さらに、Cが機器の作動により生ずる振動や騒音によって日常生活に支障をきたしているとたびたび訴え、Xもたびたび改善を求めているが、「設置に問題はない。建物の構造の問題である」としてこれも対応してきていないこと、大量の水が流れるときに生じる音による騒音の阻止に至っては、対策を知りながらこれを現在まで実施していないことが認められる。

(3)Y・Bは効果的な対応をしておらず、Xとの信頼関係は破壊されている

Yは本件契約の条項違反行為(書面によるXの事前承諾を得ていなかったこと等)だけではなく、事前承諾を得たと虚偽の強弁も行っている。さらにCの申出が令和2年4月以降たびたびなされたことに対し、「相応の対応はしている。あとは建物の構造上の問題である」などとして、効果が出るような対応をしないまま約7カ月を経過させたということができるから、令和2年11月頃には、XとYの信頼関係は破壊されていたといえる。

従って、XがYに対して行った契約の解除は有効である(東京地裁 令和4年3月31日判決)。

総評

最近、街中の貸室に大型ドラム型洗濯機などを設置した無人型のコインランドリー店舗が目立つようになりました。当事例はそのような貸室の媒介等に関わる宅建事業者、借主にとって参考になる事例と思われます。

コインランドリーに限らず、店舗等の借主は、営業のため改装工事等を行う場合には契約書の定めに沿った手続きを行うとともに、その営業に伴い近隣住民などへ騒音等の被害を生ずることがないよう十分に検討しておく必要があります。また、騒音等の被害が生じた場合には、貸主・関係者とも協議をして、可能な限りの対応を行っておかないと、信頼関係破壊による賃貸借契約の解除となる場合もあることを知っておくべきでしょう。

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