Nスタイルホームは創業13周年を迎えました。
相談者
当社が管理している分譲マンションの管理組合からの相談です。現在この分譲マンションの専有部分においてピアノ教室と弁護士事務所が営業しているそうです。このマンションはオートロックなのですが、マンションの1階ロビーが待合室のように使われています。
この分譲マンションのマンション管理規約では、居住用以外の専有部使用は認められていません。
ピアノ教室はXが経営しています。3年前から自宅の605号室でピアノ教室を営業しており、近隣からの騒音苦情も「夜は音を出していない」「ピアノは芸術で騒音ではない。騒音だと思う感性がおかしい」などと勝手な理屈を言って、近隣からの苦情や管理組合からの注意を一切無視しています。ロビーはピアノ教室の生徒と思われる子供が騒いでいて、住民からクレームが寄せられています。
弁護士事務所がある303号室は使用者とは別に所有者(海外在住)がおり、賃借人のY弁護士は「仲介会社から事務所を使ってもいいと言われた」などと言って営業を続けています。仲介会社に確認したところ「貸主も当社も事務所使用していいなどと説明していない。Y弁護士は「秘書の居住として使う」と言っていた」そうです。現に、貸主から提供された賃貸借契約書には賃借人としてY弁護士、限定入居者として、この事務所の秘書のZの名前が記載されています。明らかに用法違反なので貸主も「契約違反だ」と言っているそうですが、貸主はアメリカのサンディエゴに住んでいて、当分日本に帰ってくる予定はなく、解約等の対応はとてもできない、ということだそうです。最近に至っては、当社が動いても何もできないことをわかってか、Y弁護士は「たとえ賃貸借契約に違反していようが、契約違反かどうかはオーナーとの問題だ。オーナーは海外だし、マンション管理会社には何もできないだろう。」などと、とても法律を守るべき弁護士とは思えないことを言っています。
マンションの1階ロビーも、弁護士事務所に来たと思われる不特定多数人がほとんど自由に出入りしている状態で、セキュリティ上も不安であるとの住民の相談が寄せられています。
相談者 管理組合も困ってしまっています。管理規約に違反しているのだから営業行為はやめさせられるのではないでしょうか。
担当弁護士 確かに、マンション管理組合規約に違反しています。ただ、訴訟となると管理組合総会決議が必要になるので、解決は簡単ではないかもしれません。まずは、管理組合として今できることから進めて、営業を断念していただくよう、交渉していくのがよいのではないかと思います。
相談者 具体的にはどういった方法でしょうか。
法律問題を考える場合は、まず、関係当事者の法律関係を整理する必要があります。
ピアノ教室を開いている区分所有者Xと管理組合との関係は組合契約です。マンションの管理組合契約においては管理規約が定められています。これに違反する者に対しては区分所有法に基づき総会決議等により訴訟などを行うこともできます。
区分所有法57条 共同の利益に反する行為の停止等の請求
区分所有法58条 使用禁止の請求
区分所有法59条 区分所有権の競売の請求
区分所有法60条 占有者に対する引渡し請求
しかし、実際に組合が訴訟を行うかというと、
などから、こうした分譲マンションでのマンション管理規約違反の営業行為などは放置されてしまう場合があります。
また、このように問題が放置されると、規約違反者は「むしろ管理組合は長年黙認放置してきたのだから黙示の承認があった」と主張する場合があります。現に、過去の裁判例においては、そのように事実認定され、営業を停止させることができなくなったケースもあります。
訴訟に踏み切ることができない場合、どうしようもないかとも思われますが、以下のような次善の対応策が考えられます。
まず、管理組合、理事会として営業を認めないという場合には、違反者の行為はマンション管理規約に違反する行為であることを内容証明等により通知し、反対の意思であることを示すべきでしょう。
次に、エレベーターやエントランスに「当マンション管理規約は集客を伴う営業行為を禁止しています。このような営業を利用する立ち入りは禁止されています」など、管理行為として正当な範囲内で反対の意思を表示する方法が考えられます。実際に同種の紛争でもこの方法によって、規約違反の営業をする者が、営業行為を断念したことがあります。
区分所有者は賃借人の場合と異なり、物件に対して多額の投資をしており抵抗も強いですが、このような場合に対策を講じず放置してしまうと、マンションの管理が無秩序となってしまい、結果として管理組合の信頼を失ってしまうことになりかねません。
本事案の法律事務所の場合は、区分所有者ではなく、区分所有者からの賃貸人です。
この場合、借主である法律事務所の経営者は、賃貸借契約上の用法違反をしているわけですから、貸主の協力が得られれば、賃貸借契約を債務不履行解除することにより問題は解決を図ることができます。
なお、借主である弁護士は「仲介会社が事務所使用できると言った」と主張しているようですが、契約書上用途は居住用と定められているのですから、貸主と借主との間の賃貸借契約上の定めに影響を与えるものではありません。もこのような仲介会社の発言が事実だとしても、当該弁護士が当該仲介会社に対して損害賠償をすることができるにすぎません。
一方、今回の場合のように、貸主が海外にいたりするなど協力を得られない場合は、区分所有法60条で契約解約を求めて訴訟を起こすこともできますが、前述のとおり、容易ではない場合があります。
もっとも、賃借人が弁護士である場合は、こうした明らかに契約の記載を無視していたり、管理規約を無視している場合には、品位を失うべき非行として弁護士会へ懲戒請求(弁護士法56条)をすることが考えられます。もっとも、懲戒請求の審査には時間がかかりますし、懲戒請求をするというと弁護士も必死に抵抗してくる場合もありますから、こちらも弁護士を立てて、交渉により任意に解約を求めるべきだと思われます。
また、一般論としてですが、理由のない懲戒請求を安易に行うと、当該弁護士により損害賠償請求をされる可能性がありますのでご注意ください。
担当弁護士への相談の後、相談者Aはマンションのエントランス・ロビー・エレベーターに「当マンション管理規約は集客を伴う営業行為を禁止しています。このような営業を利用する立ち入りは禁止されています」という掲示を行いました。そうしたところ、どうやらピアノ教室の父母からXに「住民に反対されているような教室に子供を通わせたくない」などといった問い合わせが相次いだようで、Xはしばらくした後、マンション内でのピアノ教室営業をやめました。現在は駅により近い場所を借りてピアノ教室をやっています。
一方、Y弁護士に対しては、担当弁護士から営業行為を止めるよう内容証明を送り、交渉を開始しました。Y弁護士は、「管理組合は貸主ではない」「訴えられるものならやってみろ」などと当初全く耳を傾ける様子はなかったものの、担当弁護士より「管理組合はやむを得ず所属弁護士会に対する懲戒請求を検討している」ことを伝えたところ、マンション内での法律事務所の経営をやめました。
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