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マンション管理組合の役員をしています。管理費を滞納している組合員Aに支払いを督促したところ、Aは「自室が水漏れの被害を受けて損害が発生した。損害賠償請求権で管理費支払債務を相殺する」との回答です。この相殺は可能ですか?
難問ですね。一審と二審で判決が逆転した最近の裁判例を紹介しましょう。
昭和49年建築の鉄筋コンクリート造地下1階付10階建ての複合施設で、地下と1階が店舗、2階事務所、3~5階ホテル、6階事務室、7~10階住戸の建物です。土木建築請負業のY社が平成8年3月、本件6階の大部分を占める占有部分464m2(7室と通路)の区分所有権を買い受け、一部を自己使用、残りを賃貸。管理組合Xは、管理規約22条により敷地および建物の共用部分の管理を担当し、町内会費、修繕積立金、電気水道料金立替金を含む管理費を徴収しています。
Yは平成19年3月分から管理費を滞納。その頃、6階のYの専有部分に水漏れ自己がひん発。18年4月下旬頃CD室、同年9月20日頃C室南、19年9月頃D室前通路、翌年8月頃C室南、さらに23年3月11日には東日本大震災の影響で屋上ボイラー室の給水管が脱落し、全階に大規模な水漏れが生じ6階専有部分の約半分の使用が妨げられる状態となり、Yは対応に追われたの弁明。
XはM地裁T支部にYを提訴し、平成19年3月分から同年27年2月分までの管理費、修繕積立金、町内会費、電気水道料金立替金、管理規約および民法各所定の遅延損害金、管理規約所定の違約金等合計約2090万円の支払いを請求しました。
Yは水道料金の一部を争ったほか、抗弁としてXによる本件建物の共用部分等の設置又は保存の瑕疵によりY専有部分に水漏れ被害が続出したとして、Xに対する民法717条1項前段所定の工作物責任又は債務不履行責任に基づく損害賠償請求権を自働債権とし管理費支払債務を受働債権とする相殺を主張。Xは本件建物の維持管理は組合員全員が管理費を拠出することを前提としており、組合に対する債権と管理費支払債務との相殺は性質上許されないと反論。一審は「運営が困難になる可能性があることをもって一般的に相殺が禁止されるとまでは言えない。管理費支払債務を受働債権とする相殺は許されないとは言えない」と説き自働債権2258万円余りを認めて相殺の抗弁を許容し、Xの請求を棄却しました(平成28年1月19日判決、判例時報2384号1、2判)。
X控訴で東京高裁は「共用部分の占有者はXでなく区分所有者の全員である。管理責任があるところに占有があるとは言えない。Xが共用部分の占有者(工作物責任の第一次責任主体)であると見るには無理がある」「規約22条はXと個々の区分所有者間の権利義務を定めたものではない」「Xの請求原因は全部理由がありYの抗弁は全部理由がないからXの請求は全部認容すべきであり原判決は取り消すべきである」と一審判決を逆転・(東京高裁 平成29年3月15日判決)。Yの条項受理申立ては不受理で終了でした。
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