Nスタイルホームは創業13周年を迎えました。
相談者A
年末に当社が客付業者として仲介した賃貸契約なのですが、貸主様から「契約は成立していないから借主には出ていってもらってくれ」と言われています。
年末の12月26日には物元仲介業者には借主様の情報をお伝えして、この人ならいいですよ、進めてくださいと了解をいただき、借主様にはその日に契約金も送金していただきました。
正月明けの1月5日には、物元仲介業者の事務所で、借主様は、賃貸借契約書に署名捺印をして、その場で鍵を受け取っています。どうやら、入居した物件のエアコンが故障していたらしく、借主様がアパートの隣に住んでいる貸主様のところに直接交渉に行って、そこで口げんかになってしまったそうです。
貸主様は「まだ契約書には署名も印鑑も押していないんだから、賃貸借契約は成立していない」「あんな生意気な入居者だなんて知らなかったから、それを伝えなかった客付業者が悪い。客付業者の責任で借主を退去させてくれ」と言われています。
一方、借主様は、「鍵の引き渡しも済んですでに引っ越しているんだから、そんな勝手は許されない。絶対に出ていかない」とおっしゃっています。
この場合どうしたらよいでしょうか。
私はまだ賃貸借契約に署名捺印をしていない。契約は、契約書にサインをして初めて成り立つものだ。契約書とかそのためのものだろう。確かに借主の収入等については年末に知らされて物元不動産業者には「話を進めてくれ」と言ったが、まだ私が契約にサインをしていないのだから、賃貸借契約は成立していないといえるはずだ。あんな生意気な口をきく借主とは付き合えない。今後もきっとトラブルを起こすだろうから、今のうちに退去してもらいたい。
貸主がサインしたかどうかなど私が知ったことではありません。私はきちんと契約書に署名捺印しているし、真冬にエアコンが動かないなんて、常識からすればあり得ないことです。私は修理してもらえませんかと相談しに行っただけなのに、貸主は「夜中の9時に一体なんなんだ」「だったら借りてもらわなくてもいい」などと理不尽なことを言っています。だいいち、こっちは金を払っています。お客様は神様って言葉を知らないんですかね。
担当弁護士 そういう話ですか。賃貸借契約は成立しています。
相談者A そうなんですか、てっきり契約書に署名押印をしていなければ不動産の契約は成立していないのかと。
担当弁護士 それは不動産の売買契約のときです。賃貸の契約は別です。オーナー審査は通ったんでしょう?物元業者の了解を得て、鍵の引き渡しを受けているのだから、契約は成立しているといえるでしょう。
A. 賃貸借契約は当事者間の意思表示が合致すれば契約は成立します。
不動産の賃貸借契約は、諸成契約です。諸成契約は当事者間の意思表示が合致すれば契約は成立しており、書面作成等の要式行為は契約成立の要件ではありません(合意が成立していることの証拠としてはもちろん重要な書面です)。
本件では、当事者間の意思表示の合致があるかどうかが問題になりますが、入居審査を通過しているのですから、貸主はこの借主に貸すことを容認しているといえますし、既に借主は契約金を貸主口座に送金し、トラブルが起きるまで貸主はこれを拒絶していません。さらに、物元業者は契約手続きを進め、鍵の引き渡しを行っています。とすれば、貸主は当該借主に賃貸することを許容して物元業者に契約作業をさせているといえ、遅くとも借主の賃貸借契約への捺印のときには、貸主借主間に当該物件の賃貸についての意思の合致があると考えられます。したがって、本件では賃貸借契約が成立しているといえます。借主には占有権限がありますので、退去する義務はありません。
なお、賃貸借契約でも、賃料を請求するためには、借主に物件を引き渡すこと(具体的には鍵を渡すこと)が必要です。また、不動産の売買契約は、当事者間の売買意思の合致や、買付証明書や売渡承諾書の交付では足りず、売買契約の締結をもって成立するとされています(東京高裁昭和54年11月7日判決)。
内容を物元業者に伝えたところ、最初は他人事の雰囲気でしたが、なんとか貸主様を説得していただけました。貸主様も賃貸借契約に署名押印していただけることになり、借主様もアパートに住み続けることができるようになりました。
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