Nスタイルホームは創業13周年を迎えました。
平成30年4月頃、飲食業を営むXは、宅建事業者Y2に対して、セントラルキッチン兼店舗として使用する物件の紹介を依頼しました。
同年5月25日、Y2はXに、東京都内に所在するY1(不動産賃貸事業者)が所有する建物の地下1階部分(本物件)を紹介しました。その紹介書には、「前業種:ダイニングバー、重飲食相談」等の記載がありました。同日、XはY2の案内で本物件を内覧し、Y2に対して電気・ガス・水道の各設備の容量を照会しましたが、排気ダクトの容量については、確認を求めませんでした。
その後、XはY2に、セントラルキッチン兼店舗を営業内容とする本物件の入居申込書を提出しました。Y2はXに、電気・ガス・水道の各設備の容量を回答。併せてY2はXに、内装工事事業者への各設備の容量の確認を求め、その確認が取れたらY1に説明する予定である旨を連絡したところ、XはY2に対して、「設備に関してクリアできているので、話を進めてほしい」旨の返答をしました。
同年6月、Y1とXはY2の媒介により、本物件の賃貸借契約(本契約)を締結するとともに、Xは前賃借人との間で排気ダクトを含む内装・什器等を現状有姿で譲り受ける造作譲渡契約を締結しました。
同年7月、内装改装工事に着手したところ、翌月にその工事事業者から、設置を予定している排気設備に対して、排気ダクトの容量が40%程度しかない、との報告を受けました。これを受けてXは、Y2を通じてY1とその改修工事の協議をしましたが、建物の構造上多額の費用を要することが判明したことから出店を断念し、同年11月にY1に対して、本契約の解除を通知しました。
平成31年1月、Xは、Y1には本物件を使用収益させる義務の違反が、Yらには改修に多額の費用を要すること等の説明義務違反が、それぞれあったとして、Yらに既払賃料・賃借に要した費用等・逸失利益(1,644万円余)の支払いと、Y1に対してはこれに加えて保証金(320万円)の返還を求める通知を行ったものの、Yらはともにこれを拒絶したことから、同年3月、XはYらにそれらの支払いを求めて提訴しました。
令和3年3月、その請求を全て棄却する判決が言い渡されたことから、これを不服とするXが控訴しました。
裁判所は次のように判示し、Xの控訴を棄却しました。
媒介の対象物件について、賃借人の使用目的に合致するものであるか否かについては、その営業形態・設備改修の可能性等複合的な要因に大きく影響されることから、特段の事情がない限り、媒介事業者において、賃借人の使用目的に合致する物件を紹介すべき義務を負うとは解せない。
等からすれば、Xは、排気ダクトの容量が、自らの目的とする用途に適したものであるか否かについての検討を容易に行い得る立場にあった。またY2に対し、明確に排気容量の要望を伝えたとは認められず、Y2において、本物件がXの計画する営業形態に適したものであるか否かの判断を行うべき状況にあったとも認められない。
そうすると、Y2はXに対して、Xの使用目的に合致する物件を紹介すべき義務や説明義務の違反があったとは認められない。
Xは、Y1が自らの使用目的に合致する建物を引き渡さなかったことは、Y1の義務違反にあたると主張する。しかしY1は本契約締結後速やかに本物件をXに引き渡しており、排気ダクトについて一定の性能を保証したような事情もうかがえない。また前記の通り、Xは、排気ダクトの容量が、自らの計画する業態に適したものであるか否かについての検討を容易に行い得る立場にあったことからすれば、Y1に本契約上の義務違反があったとも認められない。
よって、Xの控訴はいずれも理由がないからこれを棄却する(東京高裁 令和3年12月23日判決)。
本件は、賃借した物件が自らの使用目的に合致しなかった賃借人が、賃貸人と媒介事業者に対して、賃借に要した費用や逸失利益等の支払いを求め、棄却された事例です。
裁判記録によれば、賃借人は、「本契約の締結以前に他の店舗を賃借した際に媒介を依頼した宅建事業者は、自らの使用目的に合致する設備等を備えているか確認の上、物件を紹介してくれた」とも主張していました。しかし媒介事業者や賃貸人は、賃借人が予定している具体的使用内容まで把握していないことが多い上、そもそも建物や設備の専門家ではないことから、これらについては、賃借人の責任で専門家に調査・確認を依頼する必要があるでしょう。
事業用建物の賃貸借において、賃借した建物が構造や設備の問題から、賃借人が目的とした使用ができなかったことから、賃借人が賃貸人や媒介事業者に賠償を求め棄却された事例はほかにも見られます。トラブル回避の観点からは、賃貸人や媒介事業者は、使用目的に応じ、構造・設備について賃借人側で十分確認するよう助言することも必要でしょう。
一方で、媒介事業者が賃借人の希望する用途で建物を使用することに支障があることを認識しながらこれを告げなかったケースで、媒介事業者の責任が認められた事例もあるので、媒介事業者は自らが認識している賃借人に不利な情報については、これをきちんと伝える必要はあるでしょう。
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