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訴訟委任状に署名があるのに訴訟能力なしと判断された裁判がありました。実状はどうなっていますか?
事件の状況を説明します。
Aは昭和7年××月生の老父です。平成23年1月頃、Aに覚えのない債務でAの預金が差押えられ、支払督促が届く事件がありました。同年4月、グループホームへの入居に際し、Aは本件土地持分を二男に死因贈与する贈与証書を作成。次いで同年8月、本件土地持分全部を二男に相続させる遺言公正証書を作成しました。
その後(相続開始前の)平静24年12月、平静25年1月および同年6月と3回に分け、本件土地持分が贈与登記原因として二男に移転登記されました。
Aは平成27年8月、K市の介護認定審査会の調査でアルツハイマー型認知症と難聴のため、日課が理解できず徘徊や酷い物忘れがあると報告され、同年9月30日、要介護3の認定を受けました。翌年1月、施設の調査では認知症は中程度から重度でした。同年3月の施設変更後はさらに症状が悪化し、平成29年2月、Aの成年後見用診断書を作成した医師の所見では見当識障害が高度であり、判断能力は自己の財産を管理処分できない後見相当程度、長谷川式簡易知能評価スケールの結果は5点でした。
平成28年12月4日、Aの三男の代理人弁護士Pから二男宛てに前記持分移転登記の抹消を求める訴えの提起予告が送られ、二男の弁護士がその根拠を質したところ、P弁護士は同年12月30日付訴訟委任状でAの授権を受けA代理人として平成29年1月10日二男に持分移転各登記の抹消を提訴しました。
訴訟において原告(A)は、「本件持分移転登記は被告が贈与証書と登記委任状を偽造し保管中のAの実印を押捺したもので登記は無効」と主張しました。一方、被告(二男)は本案の認否に触れず本案前の答弁として「原告がP弁護士に委任したという平成28年12月日当時、原告は重度の認知症を発症しており訴訟を委任するに足りる能力がなかったからP弁護士は有効な訴訟委任を受けないで提訴したもので訴えは棄却されるべきである」と反論。争点は原告の訴訟能力の有無です。
判決は、原告の平成23年以降の認知症の症状を中心に生活歴を調べ、さらに平成30年5月15日、施設で行われた原告本人尋問で、原告が宣誓の趣旨を理解できず訴訟提起やP弁護士に訴訟委任していること、および委任状に署名したこと等を認識していない等の供述や委任状の署名部分の筆跡がかなり乱れている事実(住所は三男の代筆)、その他一切の事情に鑑み委任状作成当時原告に本件訴訟を理解した上で訴えを提起する判断能力があったと認めることは困難であるとし、本件を有効な訴訟委任なく提起された不適法な訴えとして却下し訴訟費用(印紙代)Pの負担(民訴法69条1、2 70条)としました(さいたま地方裁判所越谷支部 平成30年7月31日判決 判例時報2410号)。
授権を受けるとき本人にその能力があるかは実務上必須な厳重注意点です。
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