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平成28年8月2日、法人の賃借人Xと宅建事業者の賃貸人Yは、東京都内のビル2階にある床面積78.05m2の一部屋(本件建物)につき、契約期間を平成28年9月1日から平成30年8月31日まで、月額賃料27万5,926円(税別)、敷金165万円5,556円とする本件賃貸借契約を締結しました。
その貸室賃貸借契約(本件契約書)には、本件建物の明渡しおよび原状回復義務について、19条(貸室明渡し)と特約欄に定めがありました(19条と特約を併せて、本件特約条項)。
XとYは、平成30年8月30日、契約期間を同年9月1日から2年間とし、更新後の賃料を28万円(税別)とする更新契約を締結しました。
その後、令和2年2月29日、XはYに対し、本件賃貸借契約の解約日を同年8月31日とする旨の解約申入書を送付しました。そして、同年7月29日、XはYに対し、本件建物内の物品を全て撤去したなどの連絡をし、8月1日付けで敷金全額の返還を求める通知書を送付しました。しかし、Yから敷金の返還はされませんでした。
そこでXは、敷金165万円5,556円の返還を求めてYを提訴しました。
Xは、そもそも50坪以下の小規模事務所であれば、事業用の賃貸でも居住用の賃貸と同様に扱われるべきであり、本件特約条項は、消費者契約法第9条および第10条並びに国土交通省の定める「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(ガイドライン)などに違反し、無効である。従って、Xは、通常損耗について、原状回復義務を負わないと主張しました。
これに対しYは、本件特約条項は、賃借人であるXが負う補修義務の範囲を具体的に定めたものであり、XとYとの間では、通常損耗についても含めて本件建物の原状回復義務の範囲が明確に合意されているから、原告Xは、その原状回復義務を負う。法人であるXには消費者契約法の適用はないから、本件特約条項の有効性に何ら問題はない。ガイドラインは、本件のような事業用ではなく、居住用の建物賃貸借契約を想定して作成されたものだと主張しました。
裁判所は、次の通りに判示し、本件特約条項の効力に関するXの主張を否認しました。
建物の賃借人は、賃貸借契約が終了した場合、通常損耗についての原状回復義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である(最高裁 平成17年12月16日判決)。
本件賃貸借契約においては、その19条1項に、賃借人である原告が貸室・造作・設備の変更、汚損および損耗を修復し、壁および天井の塗装並びに床仕上材の張替えを行い、貸室を原状に回復して明け渡すことが定められた上で、特約欄に、同条の「原状」につき、1.床、2.壁、3.ブラインドという項目が具体的に列挙され、1.については新品のタイルカーペットが敷かれていること、2.については新規塗装がされていること、3.についてはクリーニング済みのものが取付け済みであることが記載され、契約期間の長短および損耗頻度にかかわらず、元の状態に修復(3.については破損があれば交換)することが定められている。
前記特約は、本件契約書1頁目の「契約要項」欄に、本件建物の物件概要、賃貸借期間、賃料額など本件賃貸借契約の内容となる基本的事項とともに記載されており、その内容も容易に理解可能なものである。そうすると、本件特約条項によって、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されていると評価するのが相当である。
そして、Xの代表取締役Aは、本件契約書に自ら署名押印しており、原告において、本件特約条項についても明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められる。
Xは、本件特約条項の定めが消費者契約法違反である旨主張するが、法人(事業者)であるXについて、消費者契約法2条1項の「消費者」に当たるとは認められないから、Xの主張は採用することができない。Xが指摘するガイドラインは、主として居住用の建物賃貸借契約が対象となるものであり、少なくとも本件特約条項の効力に影響を及ぼすものとはいえない。
その他、Xは、本件特約条項の効力についてさまざまな主張をするが、本件特約条項の内容が、賃借人が一般に負担することのある原状回復義務の内容を過度に加重するものとまではいえず、公序良俗違反に当たるなどのその効力に影響を及ぼす事情があるとも認められない。
以上によれば、Xは、本件特約条項に定められた範囲において、通常損耗も含めた原状回復費用の支払義務を負うというべきである(東京地裁 令和4年6月24日判決)。
本事案は、「事業用の賃貸借でも小規模事務所は居住用の賃貸借と同様に扱われるべきで、特約条項は無効である」との賃借人の主張が、否認された事例です。
本事案とは異なり、小規模事務所の賃貸借ですが、その実態において居住用の賃貸借と変わらないから、特約を否認し、原状回復費用はガイドラインに沿って算定すべきであるとした事案があります(東京簡裁 平成17年8月26日判決)。しかし、本訴訟において引用された、特約の成立要件を示した最高裁判所があることから、その先例的価値はすでになくなったものと認識することが妥当であると思われます。
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