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賃貸のお困りQ&A

離婚協議中の夫婦の住宅売却の注意点

今回のご相談

当社は、物件の所有者である夫Aから、妻Bと暮らしていたマンションの1室の売却依頼を受けました。

AとBは離婚協議中とのことで、Aからはマンションに関して以下の説明を受けています。

  • 現在はBが一人で居住しており、Aは別の場所で生活している
  • Bには、まだマンションを売却することを告げていない

離婚協議中の夫婦の一方が所有するマンションを売却するにあたって、仲介会社として、どのような点に注意すればよいでしょうか。

回答

まず、マンションを自発的に明け渡す意向があるかどうかについて、妻Bに確認する必要があります。

Bが明渡しに同意しない場合は、マンションを買主に引き渡せる日の目途が立たないため、売買契約の締結を控えることが賢明な対応です。

なお、Bが明渡しに同意した場合であっても、後に同意を反故にされるリスクは残るので、明渡しが完了したことを確認後に売買契約を締結するのが理想的な対応となります。明渡完了前に売買契約を締結する場合には、売主Aに対し、Bが明け渡さなかった場合のリスクを説明するとともに、Bの明渡期日と買主への引渡期日との間にある程度の余裕を設けておくなど、不測の事態に備えた措置を講じておくことが重要となります。

解説

1.夫婦間で生活の本拠としていた建物を対象とする、所有者から他方配偶者に対する明渡請求の可否

夫婦共同生活の本拠としていた建物の所有権を有する夫婦の一方が、同建物での居住を継続している他方配偶者に対し、円満な夫婦関係が終了したことを理由に、所有権に基づき、同建物からの退去を要求する紛争は実務上、散見されるところです。

この点が問題となった事案において、裁判例(東京地裁 平成30年7月13日判決)は、「夫婦は同居して互いに協力扶助する義務を負うため(民法752条)、夫婦が夫婦共同生活の場所を定めた場合において、その場所が夫婦の一方の所有する建物であるときは、他方配偶者は、権利の濫用に該当するような特段の事情のない限り、同建物に居住する権限を有すると解すべきである」として、特別な事情がない限り、建物での居住を継続する他方配偶者は所有者に対して建物を明け渡す必要はないと判断しました。

建物での居住を継続する他方配偶者が所有者に対して建物を明け渡す義務を負うのは、夫婦間の不和の原因が建物での居住を継続する他方配偶者のみの責に帰すべき事由によるものと評価される場合や、建物所有者が基準額を大きく上回る婚姻費用を他方配偶者に支払っていることが認められる場合など、特別なケースに限られます。

2.売買仲介会社として注意しておくべき事項

(1) 他方配偶者の意向確認

今回のご相談のように、マンションの売買契約を締結した場合、売主は買主に対して引渡日までにマンションを引き渡す義務を負うことになります。売主が買主にマンションを引き渡すためには、マンションに居住している他方配偶者に引渡日までに退去してもらう必要がありますが、円満な夫婦関係が終了している夫婦間では、他方配偶者が所有者の要求どおりに退去してくれるという保証はありません。もし、売主が買主に引渡日までにマンションを引き渡すことができなかった場合、売主は買主から契約を解除され、損害賠償金または違約金の支払いを請求されることになってしまいます。

マンション所有者は、「マンションは自らが単独所有する物であるから、いざとなれば所有権を有しない他方配偶者を容易に退去させることができる」という前提で、買主との売買契約締結を進めようとするかもしれません。

しかし、前述の通り、実際には、夫婦共同生活の本拠としていた建物の所有権を有する夫婦の一方が、同建物での居住を継続している他方配偶者に対し、円満な夫婦関係が終了したことを理由に、所有権に基づき、同建物からの退去を要求したとしても、特別な事情がない限り、建物での居住を継続する他方配偶者は所有者に対して建物を明け渡す必要はないというのが裁判実務の考え方となります。

そこで、売買仲介会社としては、売主が置かれている立場や負担しているリスクを正確に説明した上で、まずは他方配偶者がマンションを自発的に明け渡す意向があるかどうかの確認を求める必要があります。

(2) 契約締結の見極めと条件付け

他方配偶者が自発的な明渡しに同意するか否かで対応が異なります。詳しくみていきましょう。

① 他方配偶者が自発的な明渡しに同意しなかった場合

他方配偶者が自発的な明渡しに同意しなかった場合、前述のとおり、裁判を起こしたとしても、建物所有者が他方配偶者を一方的にマンションから退去させることができるのは、特別な事情が存在するケースに限られます。

明渡しに関する同意が得られない場合は、売主が買主にマンションをいつ引き渡すことができるかの目途が立たないので、売買契約を締結することは控えた方が良いでしょう。

② 他方配偶者が自発的な明渡しに同意した場合

他方配偶者が自発的な明渡しに同意した場合であっても、他方配偶者が所有者に対する明渡しに同意した日付(またはその近辺の日付)を、買主への引渡期日とすることはお勧めできません。他方配偶者が約束通りにマンションを明け渡す保証はありませんし、明け渡す意向を有していたとしても、代替物件がなかなか見つからないなどの理由で明渡猶予を求めてくるなどの事態が容易に想定されるからです。

そのため、売主にとって最も安全なのは、他方配偶者がマンションを明け渡したことを確認後に、売買契約を締結することです。

他方配偶者が明渡しを完了する前に売買契約を締結する場合は、売買契約において以下のような工夫をすることが考えられますのでご参考にしてください。

  • 他方配偶者の明渡期日と買主への引渡期日との間にある程度の時間的余裕を設けておくこと
  • 他方配偶者が明渡期日に明渡しを行わなかったことにより引渡しが実現できなかった場合は、売主が買主に対して損害賠償義務を負うことなく売買契約を白紙解除することができるとする特約または引渡日の変更ができるとする特約を設けておくこと

また、他方配偶者が約束通りの期日に明渡しを行わなかった場合に、速やかに建物明渡しの強制執行を申し立てることを可能にするため、事前に裁判所に即決和解(訴え提起前の和解、民事訴訟法275条)の申立てを行い、明渡しに関する債務名義を取得しておくことも有益です。

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