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広告記載クラスの車両が入出庫できないとする、購入6年後に買主が訴えた損害賠償請求が棄却された事例

建築条件付き土地売買契約において、周辺の道路状況の制約により、販売チラシの建築プランに記載されていたクラスの車両が車庫に入出庫できないとして、媒介業者の説明義務違反を主張した買主の損害賠償請求が棄却された事例(東京地裁 令和4年3月25日判決 ウエストロー・ジャパン)

1.事案の概要

駐車場付きの戸建て住宅を探していた買主X(原告)は、建築プラン図面上、ビルトイン型車庫部分に「アルファード」「エルグランドクラス」との記載のある建築条件付き物件の販売チラシ(以下、「本件チラシ」という。)をみて、平成26年1月、本件チラシを作成した媒介業者Yの媒介により売主業者A(訴外)との間で、」売買価格5980万円とする売買契約を締結した。

本件土地(私道負担部分や隅切り部分を除く)は、20坪ほどであり、北側は幅員約2.86mの私道、西側で幅員約3.36mの公道と接している。

Xの主張によれば(ただしYは否認)、契約前、XはYの担当者にアルファードクラスの入出庫について問い合わせたところ、間違いなく入庫できるとの回答であった。

Xは、同年6月、建物が完成した本件物件の引き渡しを受けたが、本件車庫自体にはアルファードを収容できるスペースはあるものの、実際には周辺道路の現況との関係で、Xの父が所有するヴォクシーですら入庫が出来ない状況であった。

Xは、結局、小型の自動車を駐車していたが、6年後の令和元年11月に至って、アルファードクラスの車両が入庫できる不動産を購入するとの目的が達成できなかったことについてYの説明義務違反があったと主張して、2000万円の損害賠償請求訴訟を提起した。

2.判決の要旨

裁判所は、次のように判示して、Xの請求を棄却した。(控訴審も棄却)

  1. (1)本件売買契約締結時の重要事項説明書においては、「本物件の車庫スペースに駐車する車種は、買主の判断によるものとします。なお、本物件の車庫スペースには一部の車種が駐車出来ない場合があります。また、本物件までの道路事情などにより利用が制限される場合があり、入出庫の際切り返しが数回必要になることもあります。」との記載があり、X及びXの父に対し、当該記載が口頭でも説明されている。
    このような重要事項説明書の記載は、本件車庫には一部の車種が駐車できない場合があることや、本件不動産周辺の道路事情によって、入出庫を含む利用が制限される場合があることを説明するものであり、また、その説明を受けた者は、通常、その説明内容を理解できるというべきである。
    そして、このような重要事項説明書の説明内容は、北側私道及び西側私道の現況が理由で、ヴォクシーを本件車庫に駐車することができないという状況と異なる説明をするものとは認められない。
    そうるすと、Yは、Xに対し、本件不動産について、車種の大きさによっては本件車庫に駐車できない場合があること、また、道路事情によって、入出庫を含む本件車庫の利用が制限される場合があることを十分に説明したというべきである。
  2.  
  3. (2)本件不動産を建築条件付土地として一般向けに販売するための本件チラシ及びXの父からの本件不動産に関する最初の照会を受けて送信したメールにおいて、本件不動産の車庫が「アルファードクラス」「エルグランドクラス」である旨がYによって記載されていたことは事実である。
    しかし、これは、予定される建物の参考建築プランであることが明示されており、本件不動産の車庫に「アルファードクラス」「エルグランドクラス」の自動車が駐車できることを確定的に述べるものではない。
    また、本件不動産の車庫が「アルファードクラス」「エルグランドクラス」である旨の上記の記載は、本件不動産の周辺の道路状況とは無関係に、本件車庫にエルグランドやアルファードを入出庫できることを説明するものということもできない。
    そうすると、本件チラシやメールに上記の記載があることをもって、本件売買契約の締結に際して、Yから、本件車庫にアルファードクラスの駐車が可能であるとの説明があったと解することはできない。
  4.  
  5. (3)以上の事情を考慮すれば、Yが、本件売買契約締結に際して、Xに対し、本件車庫について負う説明義務に違反した説明を行ったとは認めることはできない。

3.まとめ

居住スペースの確保と駐車スペースの確保は相反するニーズであり、敷地が狭小になるほどその両立が難しくなって本事例のように駐車スペース自体には問題がなくても、全面道路の幅員や電柱、道路標識等の障害物によって何回も細かい切り返しが必要となったり、入出庫が不可能なケースが生じる。

車を所有する買主にとって駐車場にストレスなく入出庫できるかどうかは住宅選びの重要な要素となるだけに数センチの差であってもトラブルになりやすく、当機構の特定紛争処理事業(ADR)においても、未完成新築住宅の駐車スペース絡みの紛争は過去にも多数あり、典型的な紛争事例となっている。

売主業者・媒介業者としては、本事例のようなトラブルが現実に多いことを認識のうえ、本事例の重要事項説明書のような記載を設けるだけでなく、広告や商談時から慎重な説明を行っていくことが必要であろう。

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