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賃貸のお困りQ&A

立退き交渉を伴う買受けを弁護士法73条違反とし、明渡しと使用損害金等の請求を権利の濫用で棄却

【ご相談】

宅建事業者が、父親が所有し、長女が入居するマンションの居室を買受け明渡して転売を計画したとこと、売買契約は弁護士法73条違反と判断されたと聞きました。なぜですか?

買受け→明渡し→転売の方式は形式的に弁護士法73条に該当

73条は分かりづらい規定です。72条が非弁護士による法律事務の取扱いを禁止した基本的な規定で、73条は「何人も他人の権利を譲り受けて訴訟その他の手段によって権利の実行することを業とすることができない」と前条の潜脱に備えて国民の法律生活上の利益に対する弊害を防止するための規定で、形式的には73条の要件を満たしても弊害を生ずるおそれがなく社会的経済的に正当な業務の範囲内にあると認められる場合は73条に違反するものではない(最高裁三小 平成14年1月22日判決)と解されます。

実例で解説しましょう。

合弁会社Gは、代表社員がA、社員が被告(Aの長女)でK市に一棟の建物を所有して賃貸経営をしていました。平成16年1月、D(Aと先妻の子)が社員に加入。平成18年5月、Aは被告を居住させる目的で市内の新築マンションの居室を2520万円で購入し、当室の鍵、登記識別情報通知等を被告に手渡し、被告が入居しました。

平成27年3月、Aは公正証書遺言(被告に当室、Dに土地、F(Aと30年来交際)にA宅、その余を被告40%、DF各30%の割合で相続・遺贈)を作成。同年10月、AはFと婚姻し、同月末にAはアルツハイマー病との診断。同年12月、Aは公正証書遺言(その余をF60%、被告D各20%の割合)を変更しました。翌年3月、Gの代表社員がAから被告に変更の登記がなされ、Aは「代表辞任を強制された」と弁護士に相談し、被告には電話で当室明渡等を申し入れました。

同じ頃、AとFおよびB(Fの子)が宅建事業者M社に連絡し同社従業員NをA宅に呼び、当室の売却を依頼。Nは占有者入居建物の買受け→明渡し→転売の取引に定評のある原告会社に当室と売却を斡旋。同社は平成14年の設立で、平成28年までに買受け→明渡し→転売の取引件数が約50回、立退料明渡しが約30回という実績で、買受けはほとんどが競売手続きによるもので、明渡しは全部が任意交渉でした。

原告は立ち退きまでの時間その他を考慮し1200万円で買受けを申し出、平成29年4月27日、Aと原告代表者がNと司法書士O、FBらの立会いで当室の売買契約を締結しました。その後、原告は被告に明渡しを催告し、拒まれると、所有権に基づく当室明渡しと取得後明渡し済みまでの月額金13万円の割合の使用損害金の支払いを提訴。被告は原告の買受無効(弁護士法73条違反他)と贈与による所有権の対抗(管理費等負担)で賃貸借の対抗および権利の濫用を主張しました。

K地裁は、「買受け→明渡し→転売の方式は形式的に弁護士法73条に該当する。占有者の占有が第三者に対抗できない場合(使用借権)、実質的にもみだりに紛議を助長するものといえる。原告は被告のAに対する占有権限の有無や内容を調査することなく買い受けたから、被告の法律的利益に弊害が生じることが防止されず73条違反行為の一環と認められる」「仮に売買契約がAと原告間で無効でないとしても、被告の法律生活上の利益に対する弊害を何ら防止することなく買い受けたにもかかわらず所有権に基づいて明渡しや使用損害金を請求することは権利の濫用として認められない」と請求を棄却しました(熊本地裁 平成31年4月9日判決 判例時報2458号)。

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