Nスタイルホームは創業13周年を迎えました。
貸主Y(転貸人)は、4階建て9戸の共同住宅(本件建物、平成29年5月新築)のうち貸室5戸(本件各貸室)を賃借し、転貸するために、自社サイト(本件サイト)に掲載しました。
平成29年11月、借主X(転借人)は、住宅宿泊事業(民泊事業)を行うため、宅建事業者Aの媒介にて、本件各貸室の賃貸借契約(本件各賃貸借契約)を締結し、Yより本件各貸室を賃借しました。
なお、平成29年10月27日付で消防庁より発出された「住宅宿泊事業法に基づく届出住宅等に係る消防法令上の取扱いについて」(本件通知)によれば、住宅宿泊事業を営む住宅において必要となる消防設備等は、宿泊室の床面積や家主(民泊事業者等)の居住の有無等から判定された消防法令上の用途に応じて定められることとされていました。
Xは、令和2年6月ごろ、本件建物の管轄消防署より本件各貸室の用途が、特定用途の複合(民泊事業を行う施設)に該当することから、本件建物全体に消防設備の設置が必要である旨の連絡を受けて、Yに対し、その対応を求めました。
しかしYは、Xに対し、「Yはあくまで民泊利用を所有者から許可されている物件を紹介しているもので、民泊事業を継続するのであれば、消防設備設置はXにおいて行ってほしい」と拒否の回答をしました。
これに対してXは、本件各賃貸借契約締結の際、①本件建物には民泊事業を営むに当たり消防法令上必要とされる自動火災報知機等が未設置であること、②本件各貸室において民泊事業を営むためには、本件建物全体に係る消防設備投資の費用をXが負担しなくてはならないことの説明をYが怠ったとして、Yに対し賃借に要した費用等として475万円余の支払いを求める訴えを提起しました。
第一審において、Xの請求が棄却されたことから、これを不服としたXが控訴しました。
裁判所は、次のように判示し、Xの控訴を棄却しました。
Yが本件各貸室を本件サイト上に掲載していたことから、Xは本件各貸室で民泊事業を営むことを計画。本件各貸室の賃貸借契約を締結した。消防法令上、本件各貸室で民泊事業を営むためには、本件建物全体に自動火災報知設備を設置し、1階コミュニティスペースに誘導灯を設置する必要があった。しかし、本件建物にはこれらが設置されていなかったことが認められる。
しかし、本件サイトや本件各賃貸借契約書、重要事項説明書には、本件各貸室ないし本件建物が、民泊事業を行うに当たり必要とされる設備を完備している旨の記載や、民泊事業を行うに当たり法令上の問題がない旨の記載はない。また、本件各賃貸借契約締結に際し、Xが、YないしAに対し、前記のことを要望したり確認を求めたりした形跡もない。そうすると、本件各賃貸借契約の内容として、本件各貸室ないし本件建物に民泊事業に必要とされる設備が備わっていることまでが含まれていたものと認めることはできない。また、貸室の民泊利用につき貸主が承諾している物件情報を提供する本件サイトに物件を掲載したことが、民泊事業に必要とされる設備が備わった建物であることをYが保証したことになると評価することもできない。
消防法令上の取扱いについては、平成29年10月27日付の本件通知によって定められたものであるところ、本件各賃貸借契約はそれから1カ月足らずで締結されたものである。本件各賃貸借契約締結時点で、本件通知の内容が不動産賃貸事業者等に周知されていたことを認めるに足りる証拠はないし、Yが本件通知の内容を知っていたとしても認められない。
なお、Xが、本件各賃貸借契約当時、本件通知について話題に出したり、消防法令上の取扱いについてYやAに確認したりした形跡がないことからすると、ホテルおよび旅館等その他宿泊施設の企画、運営、管理および経営等を目的とする株式会社であるXにおいても、本件各賃貸借契約当時、本件通知の内容について把握していなかったことが推認される。
そして、Yは、Xから本件各貸室ないし本件建物において民泊事業を営む場合の法令適合性について調査を依頼されたコンサルタント事業者でも、民泊事業を営むための設備を完備した建物を紹介するよう依頼された宅建事業者でもなく、本件各貸室の賃貸人にすぎないのであるから、本件各賃貸借契約締結に際し、積極的に法令等を調査して、本件各貸室で民泊事業を営むために必要な消防設備等を備えているかどうかを確認しなくてはいけない義務があったとまで認めることはできない(東京高裁 令和4年10月27日判決)。
最近、本事例のように、民泊目的で建物を賃借したが、消防法等の規制によって。借主が目的である民泊としての使用ができなかったというトラブルがよく見られるようです。
トラブル回避の観点から、宅建事業者の皆さまが民泊目的の建物賃貸借の媒介を行う際には、建物が民泊事業に使用できるかどうかの消防法等の調査については、設計・建築等の専門家による確認を含め、借主が自らの責任において調査をする必要があることをよく説明していただければと思います。
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