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賃貸のお困りQ&A

定期借家契約への切り替え

相談内容

相談者 貸主のXから、賃貸借契約の切り替えの相談を受けています。
今回ご相談をいただいているマンションは、築40年ほどの鉄骨造の建物なのですが、最近は賃料もあまり取れなくなってきたため、Xはこのマンションを取り壊し、新たにテナントビルを建てたいと希望しています。
そこで、更新のタイミングで借主の方に、賃料を減額したうえで、普通賃貸借契約から定期借家契約に切り替えてもらえないかとご相談をさせていただいていたのですが、賃借人の一人の方から、定期借家契約に切り替えることはできないんじゃないかという指摘を受けています。
この方の言うように、普通賃貸借から定期借家契約に切り替えることはできないのでしょうか。

解説

法的に整理するとどうなるか

① 借地借家法上、切り替えが可能か?
定期借家では、期間が満了すれば入居者は退去しなければならず、契約の更新という概念がありません。他方、普通借家は、期間が満了しても契約更新が可能なため、賃貸人が契約更新を拒絶するには正当事由が必要となり、立退き料の支払いが必要となります。
そのため、賃貸人としては近い将来、賃貸建物を自己使用することや建て替えをすること等を理由に、現在入居者と締結している普通借家契約を定期借家契約に切り替えたいと希望する場合があります。
では、このような切り替えは無制限に可能なのでしょうか。仮に入居者がよいよと言った場合、合意が成立したからこれで問題ない、となるのでしょうか。
切り替えに当たり注意すべきは、平成11年の借地借家法改正附則3条です。
附則3条
「第五条の規定の施行前にされた居住の用に供する建物の賃貸借(旧法第三十八条第一項の規定による賃貸借を除く)の当事者が、その賃貸借を合意により終了させ、引き続き新たに同一の建物を目的とする賃貸借をする場合には、当分の間、第五条の規定による改正後の借地借家法第三十八条の規定は適用しない」
附則3条にある「第五条の規定の施行前」とは、平成12年3月1日以前のことを指します。したがって、平成12年3月1日以前に締結された居住用の普通借家契約を、定期借家契約に切り替えることが禁止されています。つまり、賃借人の承諾があったとしても、切り替えた定期借家契約は無効になるのです。なお、契約が更新されていても、最初に契約した時期を基準に、平成12年3月1日以前かどうかで判断します。
他方で、附則3条を反対に解釈すると、「事業用の普通借家契約」と「平成12年3月1日以降に締結された居住用の普通借家契約」については、定期借家契約に切り替えることができるようになります。
定期借家契約に切り替える具体的な方法としては、従前の普通借家契約を合意解約し、定期借家契約を結び直すことになります。この際、当然ながら38条2項書面の交付や説明など借地借家法上の手続きを踏む必要があります。
なお、上記の条文には「当分の間」とありますが、現時点では、この「切り替え禁止」を解除する立法なされてません。
② 他に方法はないか?

以上の通り、平成12年3月1日以前に普通賃貸借契約を締結した住宅の場合については、定期借家契約への切り替えはできません。では、定期借家契約という方法ではなく、他の形での合意ができないでしょうか。
考えられるところとしては、

1.明渡猶予期間付合意解除
2.期限付解約合意

という方法があります。とはいえ、これらの方法も貸主にとって都合のよいものではないので注意が必要です。

(1) 明渡猶予期間付合意解約
明渡猶予期間付合意解約とは、普通借家契約を合意解約したうえで、建物の明渡期限を猶予する方法です。たとえば、4月1日に契約を合意解除して、その際に「半年後の10月1日に建物を明け渡す」と合意する場合です。
契約は解約されていますので、4月1日以降の建物の使用対価は、賃料ではなく賃料相当損害金として受け取ることになります。
(2)期限付解約合意
期限付解約合意とは、将来のある時点で契約を解約して建物を明け渡すことを、前もって合意しておく方法です。たとえば、4月1日に「半年後の10月1日に普通借家契約を合意解約する。同日、建物を明け渡す」と合意する場合です。
明渡猶予付合意解約との違いは、4月1日時点で契約が解約されていないため、同日以降の建物の使用対価は普通借家契約に従って賃料として受け取ることになります。
(3)これらの合意はどこまで有効か
以上のような合意は、形式的には新たに定期借家契約を締結しているわけではありませんので、平成11年の借地借家法改正附則3条には抵触しないといえます。
しかし、裁判実務では、これらの合意の有効性が争われることがあります。
具体的には、明渡猶予期間付合意解約については、当該猶予期間が更新のない借家契約であると主張される場合があります。また、期限付解約合意についても、解約の効力が発生するまでの期間が更新のない借家契約であると主張される場合があります。更新のない借家契約と認定されると、借地借家法26条から28条(更新制度)に反する賃借人に不利な特約として、同法30条によって無効とされてしまいます。
裁判例を見ると、有効無効両方の判断がありますが、事案が種々多様で、特殊な事案もあることから、合意が有効となる基準を一般化して説明することはできません。もっとも、合意を締結する際には、少なくとも、以下の点に留意しておくとよいのではないでしょうか。

① 明け渡しの猶予期間、または期限付合意解約では解約までの期間を、長くても1~2年程度にとどめた方が有効となりやすい。
② 明渡猶予期間付合意解約であれ、期限付解約合意であれ、普通借家契約を合意解約により終了させることについて、賃借人に十分に説明して理解してもらったうえで、任意かつ真摯に合意してもらう。
③ 合意書面の作成。

① については、明渡猶予期間付合意解約との関係では、猶予期間が長くなればなるほどその期間が借家契約と見られてしまう可能性が高まります。
また、期限付解約合意との関係では、不確定な将来の事情を理由に前もって解約合意をするわけですから、解約の効力発生時期が先になればなるほど不確定の程度が強まり、前もって解約合意をする合理性・正当性が失われていきます。
② については、将来紛争となるリスクを減少させるためには、合意をする際に賃借人に納得してもらうことが何よりも重要といえます。
③ については、合意内容を証拠化する趣旨です。適正かつ正確な書面作成を心掛ける必要があります。

以上のとおり、明渡猶予期間付合意解約または期限付解約合意は禁止されているわけではありませんが、気をつけて合意を締結しないと後々に紛争になり、さらには裁判で無効とされてしまうこともありますので、注意しましょう。

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