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長男の暴力に手を焼いたある老父が遺言で『相続の廃除』を求めたと聞きました。これはどういうことですか?
「遺留分を有する推定相続人が被相続人を虐待し、重大な屈辱を与え、または著しい非行があったときは、被相続人は家庭裁判所に推定相続人の相続廃除を請求することができる。遺言でも可」と民法が定める相続権はく奪の制度です(民法892~895条)。被相続人の恣意がないよう家庭裁判所が審判で廃除の是非を判断します。
事例で説明しましょう。
X(昭和19年生)は空調設備関係の自営業者、A(昭和46年生)はXの推定相続人(長男)です。
Aは平成16年にXの会社に入社しました。AのXに対する暴力は、①平成19年5月頃、AがXを殴打。理由はXが妻Y(Aの母)に暴行を加えたのをとがめたため、②平成22年4月16日頃AがXを突き飛ばして転倒させた。理由は会社業務について口論となり、Xが殴りかかりAが反撃したため。Xは4月19日から23日まで入院し、右第10、左第8の肋骨骨折ならびに外傷性左気胸(23日軽快)の診断。肋骨骨折は全治3週間だった、③同7月15日、AがXの顔面を殴打し、Xは鼻から出血。理由はAが手配した空調設備修繕契約をXが無断で取り消したため、の3回でした。
Xは平成23年3月、公正証書遺言で上記暴力を理由に、Aにつき相続廃除の意思を表示。平成30年にXが死亡し遺言執行者が右遺言に基づき相続廃除の審判を申し立てました。
大阪家裁は「廃除は推定相続人の非行が持続的共同関係を破壊する程度に重大であったときに相続権をはく奪する制度であるから、言動の外形だけではなく原因や背景等を考慮する必要がある」、「申立人提出の陳述書にもXがAと仕事をする中で喧嘩をしていた旨の記載がある」、「申立人は暴力につきAの陳述の真否を特段主張していない」、「Aの暴力の原因や背景にXの言動がAの暴力を誘発した可能性を否定することができない」、「暴力を加え傷害を負わせた事自体を理由に相続権をはく奪することが社会通念上相当であると認めることはできない」と申立を却下しました(大阪家裁 平成31年4月16日判決)。
申立人の即時抗告で大阪高裁は、「②の暴力の理由は客観的な裏付けを欠き直ちに信用することはできない。その他の暴力についてもAの供述書の記載内容には客観的裏付けが欠けている」、「暴行①③について、仮にAの陳述するような事由がありAが立腹する事情があったとしても、当時60歳を優に超えていたXに暴力を振るうことをもって対応することが許されないことは言うまでもない」、「②については入院治療を受けた等結果は極めて重大であり、社会通念上厳しい非難に値するから相続権をはく奪することになってもやむを得ない」と判示し、「原審判を取り消す。AをXの推定相続人から廃除する」と破棄自判の決定でした(大阪高裁 令和1年8月21日決定 判例時報2443号)。
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