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賃貸のお困りQ&A

連帯保証人を立てる際の注意点(個人の根保証)

今回のご相談

当社はAさんに居住用マンションの一室を賃貸しようと考えていますが、Aさんが賃料を滞納した場合に備えて、連帯保証人を立てるよう依頼しようと考えています。何か注意すべき点はあるでしょうか。

もし、Aさんが賃料を滞納し、そのまま死亡した場合、連帯保証人Bさんにその後の滞納賃料の負担を求められるでしょうか。また、Bさんが死亡した場合には、Bさんの相続人にその後の賃借人の滞納賃料を支払ってもらえるのでしょうか。

さらに、Bさんから請求があった場合、Aさんが賃料を支払っているかどうかなどの情報をBさんに伝える必要はあるでしょうか。

回答

賃貸借契約の保証は根保証契約となり、Aさんが個人の連帯保証人を立てる場合には、極度額(保証人の保証債務の上限)を定めないと無効となります。

また、Aさんが死亡した場合には、根保証契約の元本が確定するため、連帯保証人のBさんに以降の滞納賃料の支払いを求めることはできません。また、Bさんが死亡した場合にも同様に元本が確定し、それ以降のAさんの滞納賃料の支払いを、Bさんの相続人に対し求めることはできません。

なお、連帯保証人Bさんからの請求があれば、遅滞なく、Aさんが負う賃料、滞納額、利息、違約金等の不履行の有無および残額、ならびに弁済期が到来しているものの額をBさんに伝える必要があります。

解説

1. 個人の根保証における極度額設定義務について

継続的な取引から発生する不特定の債務を包括的に担保する保証を根保証といいます。賃貸借契約における賃借人の債務も不特定であり、これを保証することも根保証となります。

令和2年4月1日施行の改正民法(以下「民法」といいます)では、根保証契約の保証人の責任を限定するため、個人が根保証をする場合には、主債務が貸金等である場合に限らず、極度額を設定しなければならないものとしました(民法465条の2第1項)。極度額を設定しなかった場合、保証契約は無効となります(民法465条の2第2項)。なお、法人が賃金等以外の主債務の保証人となる場合には、従前どおり、極度額を設定は法律上必要とされていません。

2. 元本確定の条件

元本の確定とは、一定の時点で根保証の担保する主たる債務を特定することをいいます。保証人は、元本の確定後に発生した主たる債務を負担する必要はありません。従前、主債務が貸金等ではない賃貸借契約の根保証においては、保証人が死亡しても元本は確定せず、相続放棄がない限り、相続人が相続発生後の債務についても責任を負うものとされていました。もっとも、賃貸借の保証のような個人の根保証における保証人の責任を制限するため、以下の場合には、元本が確定するというルールが設けられました(民法465条の4)。

  1. ①保証人について、債権者が金銭債権の強制執行・担保権の実行を申し立てたときおよび破産手続き開始の決定があったとき(同条1、2号)
  2.  
  3. ②賃借人、保証人が死亡したとき(同条3号)

従って、保証人の死亡は②の元本確定ルールに該当するため、連帯保証人の相続人は、極度額の範囲内で保証人の死亡時期までの債務のみを負担することになります。

3. 情報提供義務について

もし、主債務者が債務不履行に陥ったにもかかわらず、保証人が当該債務不履行の事実を知らないと、遅延損害金が積み上がっていってしまいます。賃貸借契約の保証においては、保証人の働きかけによって契約を早期に終了させる機会を失ってしまい、実際に賃借人が賃料等を滞納し続けていることを知らず、保証人が高額な滞納賃料を請求されるというケースが生じています。この主な原因は、保証人が債務の履行状況等についての十分な情報を得られないことにありました。

そこで、民法465条の2では、保証人が主たる債務者の依頼を受けて保証をした場合に、保証人の請求があれば、賃貸人は、保証人に対し、遅滞なく主たる債務の元本、利息、違約金、損害賠償債務等についての不履行があるかどうか、それらの債務の残額および弁済期が到来しているかどうかについての情報を提供しなければならないとしました。この規定に違反した場合の効果について民法上は特段定められてはいませんが、情報提供を怠った賃貸人は、保証人に対し損害賠償責任を負う可能性があります。

4. 実務上の注意点について

以上を踏まえると、実務では次の点に注意が必要となります。

第1に、個人との間で賃貸借の根保証契約を締結する場合は、書面で極度額を設定することを忘れないようにしましょう。この場合、極度額は明確に記載することが必要です。では、「家賃2年分」などの記載でも問題ないでしょうか。この点、家賃は増減し得ることが想定されていることからすれば、このような記載は不明確であり、無効とされるおそれがありますので避けましょう。

第2に、賃借人または保証人が死亡した場合には、根保証の対象となる主たる債務の元本が確定することを認識しておきましょう。前者の場合の保証人および後者の場合の保証人の相続人に、その後に発生した賃借人の債務の保証義務はありません。実務上は、賃貸人は、賃借人に対し、新たな連帯保証人を立てるよう求めていくことになるでしょう。

第3に、賃貸人は、保証人からの請求があれば、保証人に対し、適切に情報を提供することが必要となります。なお、民法465条の10では、保証契約締結時の賃借人から保証人への情報提供を義務付けていますが、これは主たる債務が事業用の場合の個人保証に限るため、社宅を除く居住用の賃貸借は情報提供義務の対象とはなりません。

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