Nスタイルホームは創業13周年を迎えました。
分譲マンションを購入した外国人買主により、駐車場が確実に確保されることや外国語を用いず日本語のみで重説したことは、売主業者の説明として不十分であり、情報提供義務違反に当たるとして、買主が損害賠償等を請求した事案において、その請求が棄却された事例(東京地裁 令和3年3月11日判決 ウエストロー・ジャパン)
平成28年10月21日、買主Xら(原告:X1は法人・不動産業、X2はX1の代表者)は、X2の家族(両親と弟)及び通訳Cと共に、売主Y(被告:法人・不動産業)が分譲した居住用高層マンション(本件建物)のモデルルームを訪れた。その際、Yは外国語を話すことが出来ないDが担当者として対応した。XらにおいてはCが通訳を行った。X2の家族はいずれも中国人であり、主たる言語は英語と中国語のみで、日本語を話すことは出来なかった。CはX2の母の会社の社長アシスタント(日本人)として、必要に応じて、日本語と英語との通訳を務める人物であった。
平成28年11月4日、X1とYは、本件建物の1507号室を購入する売買契約を締結し、X1は手付金2190万円をYに支払った。さらに後日、X1とX2は、本件建物の1506号室も共同購入する売買契約を締結し、手付金2190万円(X1・X2の折半)をYに支払った。そして、この2件の契約(本件契約)のいずれかにおいても、XらはX2の家族のほか、Cが通訳のために同席し、YはDが担当者として対応し、DはXらに対して重要事項説明(重説)をCの通訳を介して行った。
平成30年2月2日、Xらは、機械式駐車場利用の抽選は落選していたが、本件建物(1506号室と1507号室)竣工後の内覧会に赴いた。
その後、Yは、平成30年4月27日の引渡日までに売買残高代金の支払が無かったことから、Xらに対して本件契約の解除の意思表示を行い、手付金を違約金として没収する旨を通知した。
これを受けてXらは、①Dは、駐車場が確実に確保されると説明した、②X2らの家族は、いずれも日本語を話すことができないが、売買契約書や重説についても英文の書式を用意せず、通訳もCに一任していた、③重説は、締結しようとする契約の内容を正確に理解させるために要求される義務であり、日本語を理解しない外国人は日本語で説明するだけで契約内容を理解することができない以上、説明としては不十分であり、Dが情報提供義務に違反したことは明らかである等として、Yに対し、債務不履行による損害賠償(手付金相当額のX1:3285万円、X2:1095万円)、及びDの不適切な説明や不誠実な対応により精神的な苦痛を受けた等と主張して、不法行為による慰謝料100万円を請求した。
これに対し、Yは、①駐車場は一般抽選で利用の可否が決まるものと説明した、②原則的に外国人顧客に対しても外国語の契約書や重説の用意はしていない、③外国人に対する重説について、外国語で実施することは法令上要求されておらず、日本語で行えば足りる、④顧客側で通訳を用意していた場合は、当該通訳の正確性を判断することは困難である以上、このような通訳を介して行われた重説が何ら不適切とされる理由はない等と主張した。
裁判所は次のように判示して、Xらの請求を棄却した。
Xらは、Dによる、駐車場が確実に確保されるとの説明をしなかったことがXらに対する情報提供義務違反となる旨主張するが、DがXらに駐車場が確保される旨を説明した事実を認めることができない。
また、Xらは、X2が日本語が理解できないことをDも把握していたにもかかわらず、英文の売買契約書や重説や通訳を用意せず、Cの通訳に頼っていたところ、このような説明では重説義務の趣旨に合致しない旨から、情報提供義務に違反した旨主張する。
しかしながら、買主が外国人である場合に、日本語を理解できず自ら通訳を同行して重説を受ける事態も生じ得るところ、宅建業者においては、当該通訳の資質や翻訳内容の正確性、さらには通訳内容が買主に理解できる説明がされているか否かを判断することは困難であるといわざるを得ない。そうすると、重説を受ける買主においては、その手段の選択やその選択結果としての通訳の正確性等に関して、その危険については自ら引き受けるべきものと解するのが相当である。その上で、宅建業法においては、日本語を理解しない外国人に対して重説を外国語で行うべきとまでは規定されておらず、これが法的義務であると解することもできない。
以上によれば、本件においてはDがCの通訳を通じてXらに重説を行った以上、重説の内容や程度を充足しているものと認められ、情報提供として欠けるところはなく、何ら義務違反を認めることはできない。そして、この認定判断を覆すに足りる事情は認められない。したがって、Xらの情報提供違反による債務不履行に係る主張は理由がない。
また、X2は、Yの対応が不誠実であるなどとして不法行為が成立すると主張し、慰謝料等の支払いを求めるが、Dの対応について何ら不法行為が成立するものと認めることはできない。
本件は、日本語を理解しない外国人買主に対し、重説を外国語で行う法的義務は認められず、売主の説明義務違反はないとして、買主の損害賠償請求等を棄却した事例である。
重説は、説明を受ける買主自らが、その内容を理解する責任を負うものである。しかしながら、言語、法的制度や慣習の相違する外国人に対しては、例え通訳を通じても微妙な意思疎通はしづらく、寧ろトラブルは生じ得るものとの前提に立つべきであろう。
よって、外国人と関与する不動産取引においては、重説や契約時では無く、相手とのファーストコンタクトのような早い時点から、日本語は理解できるのか、理解できない場合にはどのようなトラブルが起こり得るか、その防止策は取れるか等を検討することが重要であり、また将来に渡り、契約の有効性に疑義を唱えられる懸念がある場合には、取引そのものを断る必要もあると思われる。
Nスタイルホームへのお問い合わせは…