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賃貸のお困りQ&A

賃貸不動産の貸主が破産した場合、居住は続けられるのか?また、差し入れた敷金はどうなるのか?

今回のご相談

当社が管理している居住用の建物(以下、「本件建物」といいます。)の所有者Yと賃借人Xは、契約期間2年、賃料20万円とする普通建物賃貸借契約(以下、「本件契約」といいます。)を締結し、Xは本件建物に居住しています。

先日、賃貸人でもあるYから、破産手続の申立てをしたとの話を聞きました。

Yが破産した場合、Xは、引き続き本件建物に居住することができるのでしょうか。それとも本件建物から退去しなければならないのでしょうか。

また、Xは、本件契約を締結した際に、Yに対して、敷金として賃料2ヵ月分に相当する40万を差し入れています。Yが破産した場合、この敷金は返還されないのでしょうか。全部または一部は返還されるのでしょうか。

回答

居住の継続については、本件契約による賃借権が第三者に対抗することができる要件を備えている場合には、引き続き本件建物に居住することができます。

敷金については、敷金返還請求権に基づき、最後配当または簡易配当の除斥期間内に本件建物の明渡しが完了し、未払賃料等の控除後に残額がある場合には、当該残額が破産債権として認められますが、他の破産債権者と同様に配当を受けることができる可能性がある、にとどまります。

解説

1. 破産手続きについて

破産手続は、債務者が支払不能または債務超過にある場合に、債権者その他の利害関係人の利害関係、債務者と債権者との間の権利関係などを適切に調整し、債務者の財産等の適正かつ公平な精算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とするものです。

破産手続開始の決定がなされると、破産管財人が選任され、破産者は財産に関する管理処分権を失い、破産者に属していた財産は、破産財団を構成します。

破産管財人は、破産財団に属する財産の換価等を行い、債務者に公平な配当を行います。破産管財人が配当を完了して破産手続が終わると、破産者が法人の場合は消滅し、破産者が個人の場合は、破産財団から弁済できなかった債務につき免責が検討され、免責されれば、債務弁済の責任を免れることになります。

2. 賃貸人が破産した場合の賃貸借契約の取扱い

破産法53条1項は「双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。」と定めています。

しかし、賃貸人に破産手続が開始した場合にこの条文が適用されてしまうと、賃貸人の破産管財人が契約を解除できることになり、賃借人は不測の不利益を被ることになります。そこで、破産法56条1項は、「第53条1項の規定は、賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利を設定する契約について破産者の相手方が当該権利につき登記、登録その他の第三者に対抗することができる要件を備えている場合には、適用しない。」と定め、賃借人が対抗要件を備えているときは、双方未履行の場合の双務契約解除権を行使できないとしています。

通常、賃借人は建物の引渡しを受けており、引渡しは賃借権の対抗要件とされています(借地借家法31条1項)。そのような場合には、賃貸人につき破産手続開始決定がなされたとしても、賃貸人の破産管財人は、当該賃貸借契約を解除できず、賃借人は、賃貸人の破産手続開始後も、対象物件を継続することができることになります。

3. 破産手続開始後の賃料等の取扱い

賃貸人が破産した場合、賃料債権は破産財団を構成し、破産管財人が賃料の請求等を行うことになります。また、対抗要件を具備している賃借権の場合、前記の通り、賃貸借契約は存続することになり、賃借人の賃貸人に対する請求権は、財団債権となります(破産法56条2項)。もっとも、敷金返還請求権は、双務契約の対価として生じるものではないため財団債権には含まれないことになります。

4. 破産手続における敷金返還請求権の取扱い

敷金は、未払賃料等を担保するものであり、敷金返還請求権は、目的物返還時に未払賃料等を控除後、残額があることを停止条件として発生する債権です。停止条件付債権を有する破産債権者は、その破産債権をもって破産手続に参加することができますが(破産法103条4項)、最後配当または簡易配当の除斥期間内に条件が成就しなければ配当から除斥されます(破産法198条2項、205条)。

従って、最後配当または簡易配当の除斥期間内に明渡しが完了していない場合、条件は成就しておらず、具体的な金額が確定できないため、敷金返還請求権は、全額について破産管財人により否認されることになります。他方、最後配当または簡易配当の除斥期間内に明渡しが完了している場合、敷金返還請求権は、未払賃料等を控除した残額について破産管財人により破産債権として認められることになります。ただし、配当の金額は、破産財団の状況により決まることになります。

また、敷金返還請求権を有する賃借人は、後に相殺をするため、破産管財人に対し、敷金返還請求権の限度で賃料の寄託を請求することができます(破産法70条後段)。破産管財人が寄託した場合、最後配当または簡易配当の除斥期間内に賃貸借契約が終了し、明渡しが完了すれば、賃料債務に対する従前の弁済は無効とされ、寄託金は賃借人に返還され、未払賃料分が敷金から控除されることになります。なお、最後配当の除斥期間までに敷金返還請求権が現実化しなかった場合、寄託額は最後配当の配当原資となります(破産法198条2項・214条3項)。

5. 対象物件の任意売却

破産手続開始後も賃貸借契約が存続する場合、破産管財人は、対象物件を任意売却により換価することを検討します。買受人が見つかれば、破産管財人は、裁判所の許可を得て、任意売却を行います。通常、重前の賃貸借契約が買受人に引き継がれ、敷金返還請債務も承継されることになります。従って、賃借人は、新賃貸人のもと、対象物件に引き続き居住することができ、当該賃貸借契約が終了した場合には、敷金返還請求権を行使し得ることになります。

なお、対象物件につき賃借権に優先する担保権が存在し、破産管財人による任意売却ができず、担保権者による不動産競売手続により対象物件が競落された場合には、賃借人には6カ月間の引渡し猶予期間が与えられるのみとなります(民法395条1項)。

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