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賃貸のお困りQ&A

借主が貸主に隣室騒音による損害賠償等を求めたが、騒音は受忍限度を超えていないとして棄却された事例

【ケース】

平成17年9月、借主X(個人)は貸主Y(個人)とアパートのA室(本件建物)について、月額賃料7万3000円(管理共益費込)にて賃貸借契約を締結し、同年10月引渡しを受けました。

Xは、本件建物の隣室B室の住人より騒音被害があるとして、Yに苦情を申し入れ、Yは管理会社等を介して、平成27年11月と同年12月、平成28年3月、B室住人に静かにするよう注意しました。

Xは、騒音計を設置し、B室のドアの開閉音などを測定し、多数回にわたり45dBから時に60dBを超えるドア音や生活音を生じさせていることを確認しました。

Xは、平成28年7月分まで賃料を支払っていましたが、同月25日到達の内容証明郵便によって、Yに対しB室住人の電話番号等の開示を求めるとともに、これに応じない場合、翌月分以降の賃料を支払わないと通知しました。

その後Xは、同年8月分以降の賃料の支払いを停止し、「貸主は借主に対し静穏に居住させる義務を負い、他の借主が迷惑行為を行っている場合には、それをやめさせる義務がある。YがB室住人の騒音を放置したことは貸主の義務に違反する。また、賃貸借契約は双務契約である以上、Yが履行を提供するまでXは賃料の支払義務を負わない」等として、①慰謝料150万円、②Xが騒音被害を被った平成27年11月~平成28年7月までの賃料相当額65万円余、計215万円余の損害賠償、ならびに平成28年8月分以降B室住人の退去までの期間についての借主の賃料債務の不存在を求め本件訴訟を提起しました。

【解説】

裁判所は次の通り判示し、Xの請求をすべて棄却しました。

  1. 貸主は借主に対し、借主の本件建物の使用収益に支障が生じない状態を維持すべき義務を負う。そして、隣室等から生じる騒音が、発生時間や程度、頻度等に鑑み、借主の受忍限度を超えて貸室の使用収益に支障を来したにもかかわらず、貸主が、これに対して講ずべき措置を怠ったと評価できる場合には、借主に対して賃貸借契約に係る物件を使用収益させる義務を怠ったものとして、借主に対する債務不履行を構成するものと解される。
  2. しかし、Xの測定方法では、Xの生活圏である本件建物全体で継続的に発生した音量とは認められず、数値の正確性については疑問が残る。しかも、B室の向こう隣りC室の住人は、ドアの開閉音などの騒音や衝撃音は感じなかったとする陳述書を提出していることからしても、Xが主張する音などが通常人をして耐え難いものであり通常生活する範囲において受忍すべき限度を超えるものとまでは認められない(東京地裁 平成29年7月20日判決)。

【総評】

騒音の態様・頻度や、借主の騒音の計測方法等を踏まえ、借主が主張する騒音は、一般的な生活音であり受忍限度を超えているものではないとした事業判断は実務において参考になると思われます。

また、本判決では、借主の貸室における使用収益に支障を来した場合に、貸主が、これに対して講ずべき措置を怠ったと評価できるときは、貸主は使用収益義務違反で債務不履行となりうることも判示しており、これに留意することが重要です。

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