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平成30年7月、既存住宅である本件土地建物について、買主Xは、売主Y1との間で、宅建事業者Y2の仲介により、代金5億1,000万円で、「本件土地の隠れた瑕疵に関する売主の担保責任は引渡し日より3カ月以内」とする旨の特約を付した売買契約を締結しました。
なお、売買契約書に添付された物件状況等報告書(本件告知書)において、Y1は、「敷地内残存物等(例:旧建物基礎・建築廃材・浄化槽・井戸)」について、「無・有・不明」の選択肢のうち、「無」の肢に〇を付けていました。
ところで、本件建物(昭和59年12月新築)の建築に当たっては、Y1が旧建物の建替えのため、昭和58年1月に、A社に敷地調査を依頼し、本件土地に浄化槽および大谷石の擁壁等がある旨の図面添付のある本件敷地調査報告書の交付を受け、翌年5月に、A社に浄化槽および大谷石の擁壁の撤去を含む旧建物の解体と本件建物の新築工事を発注した経緯がありました。
Xが、平成30年8月末日に本件土地建物の引渡しを受け、平成31年3月に、B社に本件建物の解体工事および自宅建物の新築工事を発注したところ、令和元年8月ころ、本件土地の地中から、コンクリート製の桝および大谷石の擁壁(本件残置物)が発見されました。
Xは、Y1に対し、「Y1は、本件敷地調査報告書により本件残置物を認識していたというべきであり、また、認識していなかったとしても、本件残置物撤去の確証を有していなかったのであるから、本件告知書の項目の敷地内残置物等については『無』ではなく、『不明』の旨を告知すべき義務違反がある」と主張。また、Y2に対し、「宅建事業者として、過去に浄化槽および大谷石の擁壁があった本件土地の売買を仲介するに当たって、敷地内残存物がある可能性を察知し、売主に事実と異なる告知をさせないようにすべき注意義務違反がある」等として、本件残置物の撤去費用等260万円余を請求する訴訟を提起しました。
裁判所は次のように判示して、XのYらに対する請求を棄却しました。
本件残置物と、本件敷地調査報告書の浄化槽および大谷石の擁壁とは、その位置や形状、材質等から同一物であると認められる。
しかし、本件敷地調査報告書の浄化槽および大谷石の擁壁は、昭和59年の建物解体工事において撤去の対象とされたいたものであり、Y1は本件告知書を作成した際、本件敷地調査報告書の内容および解体工事の内容について把握をしていなかったと主張している。
仮に、Y1が本件告知書作成の際、当該内容を把握していたとすれば、本件敷地調査報告書中の浄化槽および大谷石の擁壁は昭和59年に撤去されたと考えるはずであるから、Y1が、本件告知書において「敷地内残存物等」の項目の「無・有・不明」の選択肢の「無」の肢を選択したとして、何ら非を問われるべきものではない。
また、Y1が本件告知書を作成した当時の本件土地および建物の外観並びにその他の状況から、本件土地に浄化槽および大谷石の擁壁が埋設されていることを疑うべき表徴があったと認めるに足りる証拠はなく、実際、Xが依頼したB社の解体工事等において、担当の従業員が、本件土地に浄化槽および大谷石の擁壁が埋設されているかは一切分からなかった旨述べていることも考慮すると、Y1が、前記選択肢について、「無」ではなく「不明」の肢を選択すべき義務を負う状況にあったとは認められない。
仲介したY2は、建築士や不動産鑑定士のように取引物件の物的状態に係る調査能力を備えているわけではなく、その役割は、売買契約の成立に向けてあっせん尽力することにあるから、買主に対しては、特段の事情のない限り、瑕疵の存否および内容について調査して説明すべき義務を負うものではなく、取引物件の現状を通常の注意により目視で観察した範囲で説明すれば足りると解すべきである。
そして、Y2が本件土地の売買を仲介した際、本件土地に浄化槽および大谷石の擁壁が埋設されていることを疑うべき表徴があったとは認められない。
その他、Y2が、Y1から、本件土地に地中埋設物がある旨の話を聞いていたり、Xから、本件土地の地中埋設物に関する調査依頼を受けていたといった事情も認められないことからすれば、Xが主張するような注意義務をY2が負うということはできない(東京地裁 令和4年11月22日判決)。
契約をしようとする者は、必要な情報を自ら収集して検討し、契約すべきかどうかを自らが決定するのが取引の原則です。しかし、買主の情報収集では通常知ることができない契約の判断に影響する重大な情報等について、売主がそのことを知っているのに買主に告げられずに契約が行われるとなると、買主に不公平な取引となってしまうことから、信義則上売主には、当該情報等を告知(売主・買主間の情報格差を解消)した上で取引を行う義務があることが判例(最二小 平成5年4月23日[集民166-37])などにおいて示されています。
この売主の告知義務は、売主・買主の情報格差を解消するためのものです。従って一般の売主は、認識している重大な情報等については、告知を行う義務がありますが、その認識のない情報や知らない情報等についてまで、調査して告知するまでの義務はありません。
よって、本件事案の告知書における敷地内残置物等「無」の記載は、「売主が認識している範囲において無いと理解をしている」と解されるもので、敷地内残置物等が無いことを売主が保証するものではなく、敷地内残置物等が存していた場合の売主・買主のリスク分担は、売買契約の担保責任の規定によって行われるものであり、本件裁判所の「『不明』ではなく『無』と記載した売主に何ら非を問われるべきものはない」との判断は、実務の参考になると思われます。
ところで、告知に関して、不動産取引経験の乏しい一般の売主においては、何が告知すべき事項に当たるかが分からない場合がよくあります。また、買主においては、告知は売主が認識している範囲のものであることの理解がされておらず、「告知がなかった事項は、売主の告知義務違反を問える」と誤解をしているケースも見られます。宅建事業者により、売主に対しては、告知書等により、売主としての適切な告知が行われるようサポートする必要が、買主に対しては、告知書における売主告知の限界について説明をしておくことが、望ましいでしょう。
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