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賃貸のお困りQ&A

逮捕・勾留中の賃借人の動産を賃貸人が処分したことについて賃借人の慰謝料請求が認容された事例

ケース

原告である賃借人Xは、被告である賃貸人Yの父が所有(その後Yが相続)するアパートの一室(本件居室)に、平成20年11月より入居していました。

平成29年2月10日、Xは、建造物侵入・窃盗未遂の容疑で本件居室において逮捕され、同年5月1日に失効猶予判決が言い渡されるまで拘留されていました。

Xが逮捕されたことを知ったYは、亡父から緊急連絡先として伝えられていたA(Xの実母)に架電し、Xが逮捕されたこと、Aが家賃の支払いをするのであればXの荷物(本件動産)を本居室内に置いておくことができること、家賃の支払いができないのであれば本件動産を預かって欲しいことを連絡しましたが、Aは家賃の支払いをすることはできないし、本件動産を預かることもできないので、Yに処分を依頼したい旨申し出ました。

同月18日頃、AはYに宛てて、Xが迷惑をかけたことについて謝罪する旨、および本件居室退去の件で、Xの保証人と称し、Yに対してすべての権限を委任する旨が記載された手紙を送付しました。Yは、平成29年4月10日頃、業者に依頼して、本件居室に置かれていた本件動産(ノートパソコン除く)を処分しました。

釈放されたXが、平成29年5月1日、本件居室に赴いたところ、本件居室内のX所有の本件動産が処分されていたため、Yと連絡を取りました。Yは、同日本件居室に赴いて、Xに対し、Aの承諾を得て、本件動産を処分したことを伝え、生活用品を買いそろえるための10万円および保管していたノートパソコンを交付しました。

これに対し、Xは、本件動産をYにより無断で処分されたと主張。Yに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、Yにより処分された本件動産の価額18万円および慰謝料200万円等の支払いを求める訴えを提起しました。

解説

裁判所は、次の通り判示して、Xの請求を一部認容しました。

(1) 本件動産処分は事務管理に当たらない

Yは本件動産の処分については、Aの承諾を得ており、XはAに対して承諾の権限を与えていたのであるから、Yが本件動産を処分したことについては、Xの承諾があるか、または事務管理に基づくものとして違法性は阻却されると主張した。

しかし、XがAに対して、緊急時の事務処理を委任していたという事実や、本件居室の賃貸人であったYの亡父やYに対して、緊急時にはAに連絡してほしいとか、Aの指示に従ってほしい旨を述べた事実を認めるに足る証拠はなく、AがXの保証人を名乗り、AからYに対して本件動産の処分が依頼されていたとしても、このことをもって本件動産処分についてXによる承諾があったと認めることはできない。また、Yが本件動産を処分した平成29年4月10日頃において、Xが本件居室の賃借人であったことに争いはなく、Yが本件動産を処分したことが、Xの事務管理に当たるということもできない。

従って、Yの主張は採用することができず、Yは、Xの承諾を得ないまま本件動産を処分したことについて、少なくとも過失があったといえるから、Xに対し、不法行為による損害賠償責任を負うことを免れない。

(2) 物損は填補された

Yが処分した本件動産については、その内容が必ずしも明らかではないものの、仮に目録記載の各動産(液晶テレビおよび冷蔵庫を除く)について、Xが主張する再調達費用の金額がその交換価格であると認められたとしても、その総額は約9万円であるから、YがXに対して10万円を交付していることに照らし、損害はすでに填補されたものと言わざる得ない。

(3) 精神的損害を含む慰謝料

Yが本件居室内の本件動産をすべて処分したことにより、Xは、本件居室内で逮捕・拘留される以前の生活を直ちに続けることができなくなったものと認められ、従来通りの生活の再建のためには各種の生活用品をそろえるなど一定の時間や手数がかかることはごく自然であるといえるから、個々の動産が滅失・損傷した場合とは異なり、本件動産一式を失ったことによってXに一定の精神的苦痛が生じたものといえる。ただし、Yは帰宅したXに対して直ちに10万円を交付していること、本件動産処分に関して、実母であるAに対処方針を相談して、同人の承諾を得ていること、Xが逮捕されてから本件動産の処分まで2カ月程度の期間を空けていることがそれぞれ認められ、各事情を総合すると、Xの被った精神的損害を慰謝する相当な額は、30万円が相当である。

よって、Yは、Xに対し、不法行為に基づき、慰謝料30万円を支払う義務を負うべきである(東京地裁 令和2年2月18日判決)。

総評

本件は、いわゆる自力救済に関した事案です。自力救済は、法的に禁止されているので、原則として、賃貸人としては、法的手続きをとった上で、居室の明渡しと未払賃料の支払い請求、残置物の処分等を行う必要があります。

賃貸人は、賃借人が逮捕されたことにより、先行き不透明であることや、実母の承諾を得ていることから、残置物の処分は可能と判断したものと推察されますが、実母にその権限はなく、賃借人の承諾があったとは認められないと判断されました。

本件のように賃借人と長期間連絡が取れないケースでは、前述した法的手続きを取ることが原則ですが、それ以外の方法としては、賃貸人は、賃借人の動産について処分権限を持っている代理人の承諾を得るか、賃貸借契約書の約定で、動産処分ができる条件等を定め、前もって賃借人の合意を得ておくことが考えられます。実務上の参考となるでしょう。

同様に、家賃の滞納が続き、支払いや解約に応じない状況で、賃貸人が勝手に賃貸対象居室の鍵を交換して賃借人を締め出す行為、ドアに“家賃を支払え”と張り紙をする等の行為も禁止されています。賃貸管理の委託を受けている場合は、事前に賃貸人に説明をしておくことが肝要かと思われます。

また、本事例では賃借人の精神的苦痛を認め、慰謝料の支払いも命じている点も注目したいところです。

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