Nスタイルホームは創業13周年を迎えました。
平成26年8月、法人である借主Xは、事務所ビルの1階から3階(以下、「本件建物」という。)について、当時の貸主A(訴外)との間で事業用賃貸借契約(以下、「本件賃貸借契約」という。)を締結し、月額賃料50万円(税抜き)で同年9月から平成29年9月までの3年間借り受けました。
本件賃貸借契約では、Xが差し入れる保証金を税抜家賃の6カ月分相当額の300万円とし、本件保証金については、解約時に解約時賃料の2カ月分を減却するものと約定されました。
平成27年3月、貸主Aは、本件建物をB(訴外)に売却し、Bが賃貸人の地位を承継しました。
平成29年8月、Xと新賃貸人のBは、本件賃貸借契約の期限到来に伴い、新たに賃貸借期間を同年9月から令和2年9月までで3年間に更新する事業用賃貸借契約(以下、「本件更新契約」という。)を締結しました。
本件更新契約においては、本件保証金について、次の旨が定められており、同旨の定めが当初の賃貸借契約においても規定されました。
第6条(保証金)
(以下、省略)
平成31年2月、本件建物を法人Yに売却し、Yが賃貸人の地位を承継しました。
同年12月、Xは本件賃貸借契約を解約し、Yに対し、預託した保証金300万円から約定の減却費100万円(解約時賃料2カ月分)、未精算の日割賃料13万円余および原状回復費用20万円を控除した166万円余を返還するよう請求しました。
Yは、前々所有者および前所有者から保証金として200万円が引き継がれてきた事実からも、預かっている保証金は200万円であると主張してXの請求に応じませんでした。
これに対してXは、①Yが前所有者からいくら保証金を引き継いだかということはXの保証金返還請求権には関係がない、②二重の減却を認めた事実はない、③一般に賃借人付き物件を取得する以上、買主がその購入に当たって当該賃借人との賃貸借契約書を確認しないことなど有り得ない、と主張して本件訴訟を提起しました。
裁判所は、次のように判示して、Xの請求を全額認容しました。
本件賃貸借契約書、諸費用の清算書、預かり証ならびに本件更新契約書には、いずれも本件建物の保証金として「300万円6カ月分(減却2カ月)」の旨が記載されている。
上記認定事実によれば、Xは、本件賃貸借契約締結時において、当時の本件建物所有者であるAに対し、本件保証金として300万を預け入れ、本件更新契約においても同額が引き継がれたことが認められ、これを覆すに足る的確な証拠はない。
また、本件賃貸借契約および本件更新契約に係る各契約書における保証金の定め方からすれば、本件保証金は、賃借人の賃貸借契約上の債務を担保する敷金として性質を有すると解されることから、旧賃貸人であるAに預け入れられた本件保証金は、本件建物の所有権移転および賃貸人たる地位の移転に伴い、BおよびYに承継されるものと解するのが相当である(最高裁第一小法廷 昭和44年7月17日判決・民集23巻8号1610頁参照。)。
従ってYは、Xに対し、本件保証金300万円から減却費100万円、令和2年12月分の日割賃料13万円余および原状回復費用を控除した額を返還する義務を負う。
Yは、Yの前所有者であるBから引き継いだ保証金が200万円であることからXが預託した本件保証金も200万円である旨主張するが、YがBから引き継いだ保証金が200万円であったとしても、AないしBにおいて100万円を減却した後の本件保証金を引き継いだということも十分考えられることから、直ちにXがAに預託した本件保証金の額が200万円であるとの結論が導かれるものではない。
また、Bが平成31年2月に作成した「貸主変更に関するお知らせ」には、保証金の額について合計200万円である旨の記載があるが、同書面はBが単独で作成したものであってXは作成に関与していないこと、Bとの間の本件更新契約に係る各契約書には、保証金の額が300万円であることが定められていることからすれば、上記「貸主変更に関するお知らせ」の記載内容をもって本件保証金の額が200万円であったと認めることもできない。
よって、Xの主張には理由があるからこれを認容する(東京地裁 令和3年10月8日判決)。
本事例は、売却により賃貸借物件の賃貸人が交代した場合における保証金の減却の取扱いを巡って紛争となったものです。
不動産賃貸借契約において、保証金(敷金)とは、賃借人が賃貸借契約上生じる債務を担保するための金銭であり、賃貸人の地位に承継があった場合は、その権利義務関係が新賃貸人に承継されることは上記の最高裁判例以来確立しているところです。
本事例は、保証金の返還債務は、賃貸物件の売買当事者間で引継がれた金額に拘らず、当初差し入れられた金額で新賃貸人に承継されるとしたものであり、実務上の参考になります。
減却金の取扱いについては、賃貸物件の売買当事者間において、保証金の引継ぎや売買価格の設定で調整すべき問題であり、賃貸物件の媒介に携わる宅建事業者としては、売買当事者の認識に齟齬が生じないように留意して説明しておく必要があるでしょう。
Nスタイルホームへのお問い合わせは…