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賃貸のお困りQ&A

相続財産である不動産から生じる賃料債権の取扱いについて

今回のご相談

当社で管理している複数の賃貸不動産のオーナーが亡くなりました。特に遺書はなかったようで、オーナーの4名の子である共同相続人間で遺産分割協議を実施するとのことでした。

その後、相続人の1人であるAさんは「遺産分割で賃貸不動産を取得することとなった」として、当社に対し、相続開始後の賃料(債権)である約2億円は、相続開始時にさかのぼってAさんが全て取得したものとして、自己に送金するようにと、依頼してきました。

当社は、直ちにAさんへ賃料(債権)の全額を送金しても良いのでしょうか。

回答

遺産分割協議成立までの間に相続財産たる賃貸不動産から生じた賃料債権は、遺産分割とは無関係に、各相続人にその法定相続分に従って分割されます。従って、遺産分割協議で賃料債権の取扱いについて賃貸不動産の単独所有権に取得させるとの合意がない限り、賃貸不動産を取得した相続人だけに賃料債権を送金することは避けるべきでしょう。

解説

1.遺産分割の遡及効

民法第909条本文は、遺産の分割は相続開始にさかのぼって効力を生じると定めています。そのため、遺産分割の結果、相続財産たる賃貸不動産を相続開始からさかのぼって取得することとなった相続人は、当該賃貸不動産から生じた果実たる賃料債権についても、さかのぼって取得することになるのではないかとも思えます。

しかしながら、遺産分割の対象となる遺産は、被相続人が相続開始時に所有し分割時現在でも存在する未分割の積極財産であるところ、相続開始後の賃料債権は、被相続人が相続開始時に所有しておらず、原則として遺産分割の対象となりません。その結果、相続人Aさんが遺産分割によりさかのぼって賃貸不動産を相続したとしても、原則として法定相続分に応じた賃料債権のみを取得しているということになります。

本事案では、法定相続人が4名ということですから、Aさんは、原則として、Aさんを含む各相続人と同様に2億円を4等分した5000万円ずつの賃料債権を取得しているにすぎないということになります。

2.同種事案における判例

この点、同種の事案において最高裁平成17年9月8日判決は、次のとおり判示し、遺産分割で取得した賃貸不動産によって生じた賃料の振り込まれた預金を、遺産分割で賃貸不動産を取得した相続人だけが取得することを否定しました。

  1. 共同相続財産である賃貸不動産から生ずる賃料債権は、遺産とは別個の財産であって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得すること
  2. 遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないこと

前記裁判例の結果を踏まえると、本事案でも、Aさんは、原則として、賃料債権のうち法定相続分に基づき計算された金額のみを取得できることとなり、賃貸管理会社はAさんが賃貸不動産を取得したとしても、他の共同相続人の意思を確認せず、Aさんの指示にのみ従って賃料(債権)をAさんに送金することは控えるべきでしょう。

なお、実務上は、相続開始後の賃料収入を被相続人名義の預金口座ではなく、新たに作成した預金口座に入金して管理する場合もあり、その場合には、賃料収入が保管された預金口座について預金債権を遺産分割の対象とする旨の共同相続人間の合意が認められることがあり、その場合には例外的に遺産分割と対象となります。

また、最高裁平成28年12月19日大法廷決定では、共同相続された普通預金債権等につき、「相続開始と同時に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる」と判示しており、本事案との関係が問題となります。しかしながら、この裁判例では、預金債権が1個の債権として同一性を保持しながら、常にその残高が変動し得るという性質を重視することで預金債権を遺産分割の対象としており、賃料(債権)が問題となっている本事案とは区別する必要があります。

3.賃貸管理会社の対応方針

相続人の1名のみからの事実確認に基づき、賃貸管理会社が「賃貸不動産の取得者が賃料をさかのぼって取得するとの見込みである」とし、賃料(債権)全額を交付したところ、実際はそのような合意は成立していなかったということも考えられます。このようなケースで、相続人の1名が賃貸管理会社から交付された賃料を使い込んでしまった場合には、他の共同相続人から賃貸管理会社に対し、得られなくなった賃料債権相当額についての損害賠償を求められることもあります。

他方で、場合によっては、共同相続人間の遺産分割により、賃料債権を賃貸不動産の取得者がさかのぼって取得することにするケースもあり得ます。また、複数の賃貸不動産が相続財産に含まれる場合には、円滑な遺産分割を実施するため、現金や預金債権のほか、本件のような賃料債権が、法定相続分と異なる分割方法で調整的に使われることもあります。最高裁平成17年の裁判例でも、賃料債権を遺産分割の対象にすることまでを否定しているものではありません。もし賃料債権のうち、法定相続分すら取得していなかった相続人からの指示により賃貸管理会社が遺産分割協議の内容を確認せず、法定相続分の賃料債権を交付してしまえば、他の共同相続人から責任を追及される可能性もあるでしょう。

以上のように賃貸不動産のオーナーに相続が発生する場合の状況はさまざまです。賃貸管理会社としては、相続が発生した場合、遺産分割が成立するまでは賃貸不動産が遺産共有の状態であることを踏まえ、各共同相続人の意思に反しないように注意することが必要でしょう。

また、賃料債権を巡る共同相続人の紛争に巻き込まれることを避けるため、賃貸管理会社は、各共同相続人の意思を随時確認し、賃料債権の取得について共同相続人間で遺産分割協議等の合意が存在するならば、その内容を確認しましょう。さらに後日の紛争を避けるべく、当該合意は、可能な限り口頭ではなく各共同相続人が連署した書面等の客観的な資料で確認すると良いでしょう。遺産分割協議が未了であるため、このような資料がなければ、共同相続人全員の連署による資料の提出を求めることが有用でしょう。

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