Nスタイルホームは創業13周年を迎えました。
相談者
私が担当しているαマンション105号室の入居者の方から要求についての相談です。105号室(2DK)の入居者Xより、「ふすま・畳・フローリングがカビ臭い」「エアコンを使うとカビ臭い」「交換してほしい」というご依頼があり、私が現地確認を行いました。エアコンについては年式が古かったので交換が必要だと思いましたが、「ふすま・畳・フローリングについては特にカビが確認できないのですが」とXにお伝えしたところ、「目に見えなくてもカビの臭いがわからないの」「すぐに交換して」とご立腹だったので、エアコンとふすまをαマンションの空室となっている別の部屋から、ほとんど使用されていないきれいなものを選んで移設しました。
そうしたところ、Xから「修繕で中古品を入れるなんてあり得ない」というお叱りがあり、さらに「ふすま・畳・フローリングはすべて新品にしなさい」と「部屋も全面的にリフォームしなさい」という強い要望がありました。
物件所有者様と相談したところ、「あまり揉めたくないのでいったんほかの部屋に移っていただいて工事をしましょう」というご回答をいただいたので、Xには比較的きれいな201号室(3DK)に移ってもらい、105号室の修繕を行いました(賃料は105号室の契約のままです)。
105号室のリフォーム工事が完了し、Xに105号室に戻っていただくようご連絡したところ「賃貸借契約は201号室に変わった」「私は戻る約束などしてません」「105号室はふすまやエアコンが中古のものだから修繕とか認めない」と主張され、一向に105号室に戻っていただけません。
これまで、Xからは様々な要求があり、物件所有者様もこうなってしまっては賃貸借契約を解除して出ていってもらいたいとおっしゃっています。そもそも法的に修繕をしたことにならないのでしょうか。また、Xに退去していただくことはできないのでしょうか。
A. 修繕の際、新品にしなければならないわけではありません。「今すぐ」に解除できる事案ではありませんが、移転を促しても応じない場合は催告ののち賃貸借契約の解除も可能と考えられます。
担当弁護士
管理業務に関する法律問題を自分で考える出発点は、まず、関係する当事者の法律関係を整理し、各当事者の間にどんな契約があるのかを確認することから始める必要があります。
・賃借人と賃貸人との関係は賃貸借契約
・賃貸人と管理会社との関係は管理契約
・賃借人と管理契約との間には直接の契約は何もない
多くのトラブルは賃借人と管理会社との間で議論されるわけですが、両者には直接の契約関係がないので、交渉当事者間で話がかみ合ってないことが多いように思います。
相談者 確かに賃借人と管理会社との間には契約はありません。
担当弁護士
そうなのです。賃借人が管理会社に対して修繕対応が遅いことや修繕内容に不満
があることを理由に賠償しろという場合、両者には直接の契約関係がないわけですから、管理会社は法律的にいったい何を根拠に賠償請求がなされているのかがはっきりしないのではないかと思います。そもそも法的には、本来賃借人が修繕を要求できるのは賃貸人です。
したがって、この場合に賃借人が管理会社に「損害賠償しろ」といっているのは、賃借人の修繕が遅いこと(民法412条)や、修繕が完全でないことを理由とする賃貸人の債務不履行責任(民法415条)を追求していると考えるのが法的な解釈となります。
管理会社は貸主と管理契約を結んで、貸主の修繕義務を貸主に代わって遂行しています。管理会社が管理契約上の修繕義務を負うのは貸主に対してであって、修繕が遅れて借主に賠償が必要となった場合は、貸主の賃貸借契約上の賠償義務を代わりに賠償していることになります。結論としては賠償することになるわけですが、法的な枠組みはこのように整理されます。
しかし、賃貸人には管理会社から「契約に基づくサービス」を受けている意識が強く、管理会社自身が契約に基づく債務を遅滞しているかのようなクレームがなされている場合が少なくないのではないでしょうか。
相談者 確かに何度も怒鳴られたことがあります。
担当弁護士 実際に管理業務に当たられている方々としても「何を判断のよりどころとすればよいか」「考えをどう組み立てたらよいか」不安に感じている方が多いのではないでしょうか。
担当弁護士
まずは登場人物の法律関係を整理してください。
入居者Xは居住物件の修繕を要求しているわけですが、これは、賃貸借契約に基づく賃借人の賃貸人に対する修繕義務の履行請求です。賃借人は修繕したものが新品でないことを理由に修繕として認めない、と主張しているわけですが、どこまで修繕すればよいかは、賃貸借契約に基づいて考えればよい、ということになります。
賃貸物件は必ずしも新品を貸し出すというわけではありません。また、賃貸物件は用途が定められており、物件としてその用途が、全うできればよく、賃貸物件といっても賃料が高額なものから低額なものまで様々です。
賃貸物件の修繕義務というものは、賃料に見合った範囲で、用途に従った利用可能な程度に修繕すれば足りることになります。超高級物件であれば、修繕の際、新品を入れることが当然とされることも場合によってはあるでしょう。
本件の事案のように、一般的な居住用賃貸物件では、他の部屋から移設したエアコンやふすまが居住に支障を生ずるようなものでなければ、法的に修繕義務の不履行とはならないと考えられます。Aさんは中古とはとはいえ、まだほとんど使用されていないきれいな、カビなどがないものを選んで設置したということですから修繕義務の債務不履行とはいえないと考えられます。
担当弁護士
部屋の一時移転を伴う修繕の場合、修繕が完了しても本事案のように
① 部屋に戻ることを拒絶し、戻る約束をしたのなら証拠を出せと言ってくる場合
② 戻ることを依頼しようにも入居者と連絡がつかないという場合
がよく見られます。
交渉相手に将来的な義務を負ってもらう場合には、必ず約束を書面に残しておくべきです。そのひと手間を惜しむと、かえって後で大変なことになっている案件が多いように思います。
担当弁護士
本件では、上記のとおり、不動産管理会社の修繕は債務不履行とは考えられませんので、Xの「105号室の修繕が完了していない」という貸主の修繕義務違反を理由とした105号室への引っ越しの拒否には理由がありません。
そして、確かに105号室に戻ることは口約束ですが、賃貸借契約上の賃貸区画は105号室であること、賃料に変更がないこと、経緯(修繕のための移転)を踏まえれば、裁判所は201号室への移転は、105号室の修繕のため一時的な移転であると事実認定すると考えられます。
したがって、Xが105号室へ戻らないことは賃貸借契約上の債務不履行であり、貸主様は催告のうえ、賃貸借契約を解除することができるものと考えられます。
相談後、管理会社はXと面談し、105号室へ戻るよう説得しましたが、Xはこれを拒否し、その後は電話も面会もできなくなってしまいました。そのため担当弁護士から105号室へ戻るよう内容証明にて通知し、105号室と201号室の差額賃料の損害賠償及び201号室の明け渡しを求めて訴訟を提起しました。
Xは法廷でも持論を展開していましたが、裁判官から和解が難しいなら判決せざるを得ないと言われ、賃貸借契約は解除、210号室は退去という内容で和解が成立しました。
物件所有者からは、105号室も201号室も正常に貸すことができず、賃料減になったのはこんな人物を入れた不動産のせいだ、と言われてしまいましたが、訴訟を通じてようやく解決することができました。その後も管理契約を継続していただいています。
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