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売主Yは、平成30年12月15日、宅建事業者Xと、以下の定めのある一般媒介契約(本件媒介契約)を締結しました。
Yは、平成31年2月18日、Xの媒介(両手)により、買主Aとの間で本件土地を1億2,500万円とする売買契約を締結し、手付金1,250万円を受領しました。本件売買契約には媒介報酬に関して以下の特約条項がありました。
Aが銀行から融資を受けられず、残金を支払わなかったため、YはAの債務不履行を理由に契約解除し、手付金を没収しました。
その後、XがYに約定の媒介報酬411万円余の支払いを求めたところ、Yは、「Xが媒介契約に定められた登記、決済手続き等の目的物件の引渡しに係る事務の補助を行う債務を履行していない。本件媒介契約は、残代金が全額支払われることが停止条件になっている」などと主張。媒介報酬の支払いを拒んだため、Xは未払報酬を求めてYを提訴しました。
裁判所は、次のように判示して、Xの請求を全額認容しました。
一般に不動産売買についての媒介契約は、対象不動産の売買についての媒介を委託する準委任契約と解されるところ、その目的は、対象不動産についての売買契約を成立させることにある。仮に売買契約成立後に宅建事業者が行うべき業務があったとしても、通常は補助的な業務にすぎない。不動産売買の媒介契約は、原則として売買契約が成立することによって、その委任事務を履行したものとして、その報酬支払請求権が発生するものというべきである。
Yは、媒介契約の目的は、単に売買契約の成立にとどまるものではなく、その履行の完了まで含むものであるとして、本件売買契約の履行が完了しない限り、Xの報酬請求権は発生しないと主張するが、本件売買契約に係る「登記、決済手続き等の目的物件の引渡しに係る事務」はXの補助的業務であり、報酬支払請求権の発生に影響を与えるものではない。
宅建事業者の媒介行為によって、いったん売買契約が成立した後に売買契約が解除された場合、宅建事業者は委託者に対して報酬を請求することができるかが問題となるが、本件売買契約書には、本件報酬特約が記載されていることからすれば、本件媒介契約において、本件売買契約が解除された場合における報酬額等について、すでに発生した報酬支払請求権は何ら影響を受けるものではなく、報酬の支払期限を売買契約の解除後速やかに支払うことに合意したものと認められる。
従って、Xは、Yに対し、本件媒介契約に基づく報酬を請求することができる。
Yは、(ア)本件媒介契約は、残代金が全額支払われることが停止条件になっている、(イ)本件売買契約は、買主が銀行から融資を得ることが停止条件になっているところ、これらの条件は成就していないから、Xは媒介報酬を請求することはできないと主張する。
しかしながら、媒介契約の性質は、対象不動産に係る売買契約を成立させることを目的とする準委任契約であり、原則として売買契約の成立によって、その委任事務の履行をしたものとして報酬請求権が発生する。
そうすると、本件支払約定書に「登記決済時」に媒介報酬を支払うことが記載されていることをもって、本件売買契約の履行の完了を停止条件としたものと解するのは相当ではなく、報酬の支払時期について、不確定期限を定めたものと解するのが相当である。
そして、不確定期限の定めがある場合、期限到来事由の不発生が確定したときにも期限が到来するところ、本件売買契約が解除された場合、「登記決済」の不発生が確定するために期限が到来することになる。従って、本件売買契約が解除された場合には、最終決済が行われないことが確定した解除時にX は媒介報酬を請求することができる。
Y自身、本件売買契約に基づいて受領した手付金を取得しており、本件売買契約が有効に成立したことを前提として行動している。また、融資に関する条件は、本件融資特約で規定されているところ、本件融資特約に基づく解除は、買主が融資を得ることができない場合、融資特約による解除期日までの間であれば、本件売買契約を解除することができるとの規定であって、買主が融資を得ることを本件売買契約の停止条件としていると認めることはできない(東京地裁令和4 年11月10日判決)。
本裁判例が判示するように、媒介契約は特約のない限り、報酬請求権は発生し、売買契約後に当事者によって契約が解除されても、一旦発生した報酬請求権は失われないということが原則的な考え方です。本事例では、宅建事業者の報酬請求権を制限するような特約やその対象となる事実がないと認定されたものと思われます。
Xの媒介により、売主Aと買主Y間の売買契約が成立したが、Yの残金不払によりAが債務不履行解除。XがYに報酬請求。一審はXの請求を全額認容したため、Yが控訴した。
一般に、不動産売買取引の媒介報酬は、宅建事業者が媒介行為によって売買契約を成立させたことへの対価であると解されるから、媒介報酬請求権は、宅建事業者の媒介によって委託者と相手方との問で売買契約が成立したことによって発生し、売買契約に基づく義務の履行・不履行等、売買契約成立後の事情は、媒介報酬請求権に消長を来たすものではないというべきである。本件においては標準一般媒介契約約款に基づく契約書が作成されており、同契約書においては、Xの報酬請求権は、Xの媒介によって巨的物件の売買の契約が成立したときに発生すること(一般媒介契約約款10条1項)、および媒介契約に基づく宅建事業者の業務として、目的物件の引渡しに係る事務の補助を行うこと(一般媒介契約約款5条1項4項)などが定められており、不動産売買取引の媒介報酬請求権は、宅建事業者の媒介によって委託者と相手方との間で売買契約が成立したことによって発生することが契約書上も明らかにされている。そうすると、契約成立後の目的物の引渡しに係る事務等は、媒介契約に基づく宅建事業者の業務としてはあくまでも補助としての位置付けであって、同契約書によって定められた約定報酬額は、目的物件の売買契約の成立によって発生する報酬請求権の金額であることが明らかである。
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