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賃貸のお困りQ&A

親戚に貸した建物は返してもらえるか(相談事例)

相談内容

相談者 私の自宅の裏手に、父が義理の祖父(父の妹の夫)であるAに貸していた家があります。Aは、2年前に引っ越してしまい、その後空き家になっていました。2ヶ月前にAが亡くなり、息子である従弟のBに「まだ荷物が残っているから、持っていてもらえないか」、と貸家の明け渡しの相談をしました。
そうしたところ、従弟であるBは「あの家は自分たちも育った思い出がある建物だから明け渡したくない。自分は賃借権を相談したから、明け渡してほしいのなら立退き料を支払ってくれ」と言っています。

担当弁護士 それは困った話ですね。その貸家というのはどんなお宅ですか。

相談者 これが写真です。築50年は経っています。木造平屋で、中にある荷物といっても、布団や古雑誌などガラクタがあるだけです。

担当弁護士 契約書などはあるのでしょうか。

相談者 契約書は特にありません。もしかしたらあったのかもしれませんが、家中探してみても、少なくともそれらしいものは何も見つかりません。
祖父がAに貸したのはもう50年も前の話です。祖父が、義理の弟であるAの運送業が軌道に乗るまでという約束で、自宅の裏手に建てた家を貸したのです。既に父も7年前に他界しており、それ以上詳しい話は私もわかりません。この建物は、私が相続し、現在私の単独で所有しています。

担当弁護士 親族間の貸家ですとそういうことはよくありますね。

相談者 2年前までは、建物の固定資産税はAに負担してもらっていました。
A家は何十年もタダ同然で住んでいながら、私に対し「A家の財産を独り占めした」「父が母と離婚したせいでA家は相談者に捨てられた」私のことを「恨んでいる」などと理不尽なことを言っています。祖母とAは30年前に離婚してA家を出て従弟たちはAに引き取られました。私の父は母親がいなくなった従弟たちのことをかわいそうに思って、その後も家もAに貸していたのに、こんな仕打ちをされると、恩をあだで返された気分です。
明け渡しを要求することはできるのでしょうか。もちろん立退き料などを支払うつもりはありません。もし退去に応じない場合は、ガラクタを処分してしまおうと思うのですが、どうでしょうか。

物件概要

木造平屋建て(築50年)

当事者の関係など

  • 50年前に祖父が自宅敷地の一部に新たに家を建て、義理の叔父の運送業が軌道に乗るまでの約束で貸した。
  • 義理の叔父は固定資産税を払っていた。
  • 義理の叔父は、2年前の引っ越し以降、固定資産税を払っていない。
  • 義理の叔父は、2ヶ月前に他界
  • 現在は空家

経緯

50年前
自宅敷地の一部に、祖父が木造戸建てを建築し、Aが運営している運送業が軌道に乗るまでの約束で貸した。Aは、賃料として固定資産税程度の金額を支払っていた。
27年前
祖父他界。
7年前
父他界。これ以降、相談者が自宅の固定資産税を納税する。
2年前
Aは、自宅敷地外に引っ越した。固定資産税程度の金額の支払いもこれ以降していない。
2ヶ月前
A他界。
現在
2年前から継続して、空家。

当事者の主張

オーナー 相談者の主張
貸主の祖父も、借主の義理の叔父(A)も亡くなっているから使用賃借の契約は終了している。
使用開始から50年が経過しているので、使用収益に足りる期間は経過した。
Aの従弟 Bの主張
借地権を父(A)から相続している。
荷物もまだ残っているので撤去を要求するなら、立退き料を求める。

【解説】

A.使用賃借契約は終了しています。立退き料を支払う必要はありません。ただ、荷物を処分するのは危険なので、訴訟をすることも視野に明け渡し交渉をすべきと考えられます。

法的に整理するとどうなるか

1. この契約は賃貸借契約なのか?使用賃借契約なのか?

まず、契約者がいないので、この使用関係がどんな契約かを整理する必要があります。 Aは固定資産税を支払っていたとのことですが、この程度の負担は賃料とはいえないでしょう。いわゆる負担付使用賃借です。固定資産税の負担では賃貸借契約に当たらないとした判例があります(最高裁 昭和41年10月27日判決「建物の賃借関係が使用賃借であると認められた事例」)。 賃貸借契約ではないので、借地借家法の適用はありません。したがって、解約をする場合でも立退き料を支払う必要はありません。

2. 契約が終了する場合(その1)借主が生きているかどうか

Aはお亡くなりになられているとのことですから、使用賃借契約は終了していますね。亡くなられた時点で終了ですから、使用借権は相続されません。

3. 契約が終了する場合(その2)

「返還の時期」「使用収益をするのに足りる期間」が定められているかどうか。 Aが亡くなられているわけですから、あまり関係のないことですが、本件使用賃借はAの運送業が軌道に乗るまでの約束だったわけですから、使用開始から一定程度の期間が経過した時点で契約終了を主張できたはずです。(最高裁 昭和59年11月22日判決「居住用を目的とするものであっても約32年を経過したときは、使用収益をなるに足るべき期間は経過したものと認められた事例」)

4. 家の中の残置物撤去について

ただ、家の中のものを自分で処分する、というのは危険です。残置物といえど、他人の財産と主張される可能性があり、勝手に捨ててしまうと、器物破損罪だなどと言われかねません。残置物を処分しても損害を賠償すればよい、ガラクタばかりだからたいした額にならない、というのはなかなか通りませんので、注意が必要です。 また、法律上は明渡義務に争いがある場合は法的手続きによるべきであって、これをしないことは自力救済といって、禁じられています。家の中の残置物がわずかで、あきらかに価値もなく、鍵が置き去りにされているような場合には「賃借権の放棄」とされた裁判例もありますが、なかなか認められないというのが実情です。(東京地裁 昭和26年8月6日判決「物件を再び占有使用ないし意思が客観的に看取できる事情の下では賃借権の放棄と認められるとした事例」) このような判例もありますが、きちんと法的手続きをするべきです。弁護士費用や解決に要する期間というところは気になるでしょうが、こちらが法的なリスクを冒すことによって、勝てる請求も難しくなってしまったり、犯罪だなど新たなトラブルになる場合もあります。 特に、過去の相続の遺恨も絡んだ複雑な心情が背景にあるようですので、この先何十年もこの問題を持ち出されないようにするためにも、法的手続きを取られてはいかがでしょうか。

その後

相談者は担当弁護士に明け渡し交渉を依頼しました。担当弁護士はBに内容証明を送りましたが返答もなく、最終的には提訴を提起し、判決によって強制執行を行いました。Bは、判決後にこの家に入り込んで「俺が死んでもこの家は明け渡さない」などと言って居すわり始めましたが、断行明け渡し手続きによって、明け渡しが完了し、建物はすぐに取り壊されました。執行終了後、相談者からは「あの様子だと、もしきちんと法的手続きを取っていなかったらこちらが犯罪者などと言われて面倒なことになっていたかもしれなかった」との返答がありました。

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