Nスタイルホームは創業13周年を迎えました。
債権法に関する改正民法が令和2年4月1日に施行されましたが、よくある売買契約の質問について解説したいと思います。
A1
改正民法557条は、最高裁判決(平成6年3月22日)の内容にそって規定を変えたもので、“現実の提供”とは、買主に対して手付けの倍額を支払う旨口頭で申し入れただけでは足りず、金銭を買主宅に持参するとか、買主の銀行口座に振り込むというように、売主が手付の倍額の給付について自分がなすべきことを全部行い、買主が受領すれば履行が完了する程度のことを実行することをいうとされています。
A2
以下の3つの理由に要約できると思います。
A3
契約関係を解釈する要素には「民法の規定」、「社会通念」、「特約・容認事項」があります。すなわち、我が国の民法の各規定は原則「任意規定」ですから、当然のことながら、民法の各規定よりも「特約・容認事項の当事者の合意」が優先することになり、また、法務当局は、当事者の合意は「取引上の社会通念」にも優先する旨を明言したことから(法制審部会資料79-3、8頁以下)、もし、日本の「民法典」にも「取引上の社会通念」にも拘束されたくないというのであれば、契約書において事細かに合意すれば良いことになります。
これにより特にTPPやFTA(自由貿易協定)のもとで、日本の企業・人と取引をする海外企業は、当初の合意や設定された基準に基づき投資がしやすくなるわけで、トラブルが起きた際、裁判になっても日本の民法の規定や日本の取引上の社会通念により左右されないという担保を獲得したことになります。
この点は、国内の契約のあり方や形態にも影響すると思われ、民法改正後は、取引上の社会通念を前提とした「瑕疵担保責任」が廃止され、合意を前提とする「契約の内容に適合しない場合の売主の責任」に転換することとあいまって、不動産取引の実務面でもさらに契約文言、特約重視の傾向が強まると思われます。
その意味でも大手の売買契約書の特約・容認事項を事細かに書き入れるスタイルが今後のスタンダードなものになると思います。
A4
手順・要素は、以下のように考えます。
物件の履歴から予想し得る危険性と売主の保証範囲、買主の容認内容、費用負担を個別列挙していくことになると思います。
【特約例1】化学工場の跡地で土壌汚染の可能性がある場合(①~④、(1)~(4)は複数選択可)について検討してみましょう。
本件土地は平成31年まで化学工場の敷地として使用されており(地歴)、土壌汚染、産業廃棄物埋蔵の可能性はあるため(危険性の内在)、買主は分譲地として購入するものであるが(購入目的)(売主・買主)は、残金決済までに調査をするものとする。
その結果(補償・容認の内容・契約の効力・費用負担の決定)、
この場合、
個々のケースでは、売主あるいは買主が責任・費用を負担する場合があります。それはどちらが契約を締結することを強く望んでいるかで変わってきます。
本件土地は平成30年4月まで鉄筋コンクリート造りの地上4階、地下1階の構造の商業ビル用地として使用しており(地歴)、同ビルを解体した際、売主は地下5mまでは基礎杭が取り除かれていることを現地確認したが(売主の保証範囲)、それ以下の地層に基礎杭(パイル)が存在する可能性はある(地歴に滞在する危険性)。買主は本件土地を木造2階建て4棟のための分譲地として購入するものであり(買主の購入目的)、地下5m以下に基礎杭が存在する可能性を容認して本件土地を購入するものであり、地下5m以下の地層に基礎杭が存在したとしても同存在は契約不適合に該当するものでなく(買主の容認)、売主に対し追完請求、代金減額請求、解除、損害賠償等の一切の責任を問わないことを確認する。それらの状況を種々考慮、協議して当初予定していた売買代金から金〇〇万円を値引きしたものである(値引きの有無)。
A5
上記の特約については、宅建業法40条の関係では次の2つの点で検討が必要です。
A6
「瑕疵」とは「契約締結時の契約の趣旨に照らし通常有すべき性状、性能を有しないこと」と定義されることもありました。最高裁平成22年6月1日の判例では、「契約の趣旨」を探求する場合の要素として、契約時の社会通念の他に当事者の合意も斟酌するという点を明確にしました。
今回、「瑕疵担保責任」を「契約不適合」に改めた理由の一つとして、この最高裁判例が根拠とされていますが、(「法制審議会部会資料」75A、9頁)、実務上留意すべきは、下記図のように瑕疵担保責任では第1の判断基準であった契約時の社会通念を前提とした「性状」が、新法の契約不適合制度では、第2の判断基準となり、瑕疵担保責任では、第2の判断基準であった「当事者の合意による性状」が第1の判断基準にせり上がっているということなのです。
瑕疵担保責任(旧法)
売買契約の当事者間において目的物がどのように品質・性能を有することが予定されていたかについては
(フッ素に関する平成22年6月1日の最高裁判例の構造)
※瑕疵担保責任の第一判断と第二判断の位置づけが、契約不適合では逆転することになる。
そうすると新築住宅の品質についても「契約内容」で決めるということであり、その契約内容は第一義的には当事者の合意で決め、仮に合意がはっきりしない場合には契約時の社会通念で決めるということになると思います。したがって、新築住宅の品質についても以上のように判断がなされますので、新築住宅の品質に関し、将来のトラブルを回避するためには、契約に際して、売主は買主に対して詳細な「設計図書」や「仕様書」を交付する必要があるでしょう。買主はそれを前提に購入するか否か、あるいは代金額を受入れるか否かを決めるでしょうから、それが具体的な当事者の合意内容となります。
ご質問の「良い方策」としては、設計図書にできるだけ詳細に材質や仕様を記入することということになるでしょう。内容工事についても詳細な仕様書の活用が求められますし、逆に完成されたものがその設計図書や仕様書と異なる場合には契約不適合として追完や代金減額、損害賠償、契約解除が主張される可能性があります。この点は従前に増して十分な留意が必要です。
A7
特約自由の原則から一見問題がないように思うかもしれませんが、次のような問題があります。
瑕疵担保制度の下では買主の請求権は損害賠償請求(原則「信頼利益の賠償」)、契約の目的を達しない場合の無催告解除という2つの請求権に限りますが、契約不適合制度上の買主の請求権は追完請求、代金減額請求、催告解除、無催告解除、損害賠償(履行利益)の5つであり、買主にとって原則有利な制度です。仲介業者である質問者も契約不適合制度がわからないということは買主にそのことを十分理解させていない可能性が高いと思われ、後で買主から不十分な仲介をしたというクレームが入る可能性があります。
そればかりか瑕疵担保制度と契約不適合では時効の制度が大きく異なります。瑕疵担保制度では買主は隠れたる瑕疵を知ってから1年以内に損害賠償請求をなし、引越しから10年の時効になるのに対し、契約不適合責任では契約不適合を知ってから1年以内に契約不適合を通知し、5年以内に権利行使をしなければならないことになっています。したがって瑕疵担保制度を前提とした特約をした場合、契約不適合制度の時効制度と相入れないことになり合意の一部無効や対処法にかなりの混乱が予想されますから、やはり旧法の瑕疵担保責任によるという特約は許されないと解します。ちなみに、時効制度は当事者の合意で変更できないとされていることにも留意が必要です。
Nスタイルホームへのお問い合わせは…