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賃貸のお困りQ&A

改正民法施行後によくある質問について(売買編)

債権法に関する改正民法が令和2年4月1日に施行されましたが、よくある売買契約の質問について解説したいと思います。

Q1手付解除に関する改正民法577条は、旧法557条が「売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる」と規定していたのを「売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる」と改めましたが、“現実の提供”とは何ですか。

A1

改正民法557条は、最高裁判決(平成6年3月22日)の内容にそって規定を変えたもので、“現実の提供”とは、買主に対して手付けの倍額を支払う旨口頭で申し入れただけでは足りず、金銭を買主宅に持参するとか、買主の銀行口座に振り込むというように、売主が手付の倍額の給付について自分がなすべきことを全部行い、買主が受領すれば履行が完了する程度のことを実行することをいうとされています。

Q2改正民法施行後、特約・容認事項が重要だといろいろなところでいわれるのですが、その理由を教えてください。

A2

以下の3つの理由に要約できると思います。

  1. 旧民法時代のことですが、最高裁判決(平成22年6月1日)が瑕疵担保責任における「瑕疵」について契約締結時の社会通念に照らし、通常有すべき性状、性能を有しないことの要件に加え、当事者の合意を一要素としたことです。すなわち、「瑕疵」については、具体的な契約を離れて抽象的にとらえるのではなく、①契約締結時の契約の内容に照らし、通常または特別に予定されていた品質・性能を欠く場合と、②ある事柄を瑕疵とするかの契約当事者の合意ということになったのです。この考え方は、改正民法(債権法)では、「契約の内容に適合しない場合の売主の責任」としてさらに当事者の合意を優先する形に純化されたのです。これについては後記のQ6の比較図を参照してください。
  2. 改正民法(債権法)では、債務不履行の要件である旧法の「責めに帰すべき事由」を「契約及び取引上の社会通念に照らし責めに帰すべき事由」に変更し、英米法的な当事者の合意重視に転換したことです。ここでも契約の当事者が、売主の責任についてどのように合意したか、買主は何を容認したかで、売主の責任が具体的に決まるということなのです。
  3. すでに、大手の不動産会社では改正民法を先取りする形で契約書に充実した特約事項・容認事項を採用しており、中小の不動産業者もその流れに追従せざるを得ないということです。

Q3上記の合意(特約・容認事項)と民法の規定・社会通念の関係を解説してください。

A3

契約関係を解釈する要素には「民法の規定」、「社会通念」、「特約・容認事項」があります。すなわち、我が国の民法の各規定は原則「任意規定」ですから、当然のことながら、民法の各規定よりも「特約・容認事項の当事者の合意」が優先することになり、また、法務当局は、当事者の合意は「取引上の社会通念」にも優先する旨を明言したことから(法制審部会資料79-3、8頁以下)、もし、日本の「民法典」にも「取引上の社会通念」にも拘束されたくないというのであれば、契約書において事細かに合意すれば良いことになります。

これにより特にTPPやFTA(自由貿易協定)のもとで、日本の企業・人と取引をする海外企業は、当初の合意や設定された基準に基づき投資がしやすくなるわけで、トラブルが起きた際、裁判になっても日本の民法の規定や日本の取引上の社会通念により左右されないという担保を獲得したことになります。

この点は、国内の契約のあり方や形態にも影響すると思われ、民法改正後は、取引上の社会通念を前提とした「瑕疵担保責任」が廃止され、合意を前提とする「契約の内容に適合しない場合の売主の責任」に転換することとあいまって、不動産取引の実務面でもさらに契約文言、特約重視の傾向が強まると思われます。

その意味でも大手の売買契約書の特約・容認事項を事細かに書き入れるスタイルが今後のスタンダードなものになると思います。

Q4全宅連では令和2年8月頃、特約・容認事項の文例集を公表し、各会員は同文例集を利用できるようになるということですが、すべての特約・容認事項が文例化されるとは限らないと思います。そこで、個々の取引で特約・容認事項を作成する場合の手順・要素について説明してください。

A4

手順・要素は、以下のように考えます。

  1. 物件の履歴(地歴・家歴等)
  2. 物件に内在する危険性と売主の保証範囲
  3. 買主の購入目的
  4. 買主の危険性の容認
  5. 値引きの有無

物件の履歴から予想し得る危険性と売主の保証範囲、買主の容認内容、費用負担を個別列挙していくことになると思います。
【特約例1】化学工場の跡地で土壌汚染の可能性がある場合(①~④、(1)~(4)は複数選択可)について検討してみましょう。
本件土地は平成31年まで化学工場の敷地として使用されており(地歴)、土壌汚染、産業廃棄物埋蔵の可能性はあるため(危険性の内在)、買主は分譲地として購入するものであるが(購入目的)(売主・買主)は、残金決済までに調査をするものとする。
その結果(補償・容認の内容・契約の効力・費用負担の決定)、

  1. 汚染・埋蔵等がある場合は、(売主・買主)の責任と負担で汚染・埋蔵等を除去しなければならない。
  2. 汚染・埋蔵等がある場合はその除去費用は(売主・買主)の負担とする。
  3. 汚染・埋蔵等がある場合、その除去費用が〇〇円以下であれば(売主・買主)が負担する。
  4. 汚染・埋蔵等があり、その除去等に〇〇万円以上の費用を要する場合は、(売主・買主あるいは双方)は、本契約を解除できるものとする。

この場合、

  1. 調査に要した費用は(売主・買主)の負担とする。
  2. 買主は、売主に対し、損害賠償請求はできない。
  3. 買主は、売主に対し、損害賠償(違約金)請求できる。
  4. 売主・買主は互いに損害賠償請求できないものとする。

個々のケースでは、売主あるいは買主が責任・費用を負担する場合があります。それはどちらが契約を締結することを強く望んでいるかで変わってきます。

【特約例2】地下5m以下に基礎杭が残存している可能性がある場合

本件土地は平成30年4月まで鉄筋コンクリート造りの地上4階、地下1階の構造の商業ビル用地として使用しており(地歴)、同ビルを解体した際、売主は地下5mまでは基礎杭が取り除かれていることを現地確認したが(売主の保証範囲)、それ以下の地層に基礎杭(パイル)が存在する可能性はある(地歴に滞在する危険性)。買主は本件土地を木造2階建て4棟のための分譲地として購入するものであり(買主の購入目的)、地下5m以下に基礎杭が存在する可能性を容認して本件土地を購入するものであり、地下5m以下の地層に基礎杭が存在したとしても同存在は契約不適合に該当するものでなく(買主の容認)、売主に対し追完請求、代金減額請求、解除、損害賠償等の一切の責任を問わないことを確認する。それらの状況を種々考慮、協議して当初予定していた売買代金から金〇〇万円を値引きしたものである(値引きの有無)。

Q5上記の「地下5m以下に基礎杭(パイル)が存在する可能性がある場合の特約」を宅建業者が売主の場合に使用する問題点について教えてください。

A5

上記の特約については、宅建業法40条の関係では次の2つの点で検討が必要です。

  1. パイルの可能性を契約不適合責任の対象外とすることが宅建業法40条に違反しないか。
    「パイルがあるか不明」、「土壌汚染があるか不明」であるというのは、単に売主の認識を開示したに過ぎず、社会通念上特段の事情がない限り、土壌汚染の無い土地を引き渡すことが契約の目的とされていると解されるので、土壌汚染がある土地を引き渡した場合には契約不適合責任は免れないとし、特に宅建業者が自ら売主となる場合には、契約不適合責任につき、通知期間を除き、民法よりも買主に不利な特約を設けることはできないので、改正された民法の下で、「パイルがあるか不明である」「土壌汚染があるか不明である」「雨漏りがあるかどうか不明である」といった約定を設けて宅建業法40条の拘束を回避できないものと考える、との趣旨の論考があります(『民法改正と不動産取引』(一社)土地総合研究所(編)57頁)。
    これに対し、売買の目的物の品質が不明であることを契約の内容として明確に規定し、さらに代金決定にも盛り込んであれば買主は契約不適合責任を追及できないはずであるとの反論もあります(「日本不動産学会」No116,65頁)。この議論は、「土壌汚染の可能性はあるが売主は契約不適合責任を負わない」という特約の効力についても影響するものと思われます。
  2. パイル、土壌汚染の存在は確定的であるが、それについて契約不適合責任を負わないという特約については以下のとおりです。
    1.の議論とは別に、仮に確定的にパイル、土壌汚染が存在することが確実な場合でも改正民法(債権法関係)施行後、宅建業者は、通知期間を2年以上としなければなりませんし、また改正消費者契約法8条は、売主が追完請求、代金減額請求に応じる場合や売主から委託を受けた他の事業者が損害賠償の全部または一部を負い、あるいは追完請求に応じる場合を除き、契約不適合による損害賠償責任の全部、一部を免除する条項を無効としています。
    したがって、たとえばこの当事者間の売買契約では、上記のように「契約不適合責任をまったく負わない」という特約は無効となってしまいます。さらに、「・・・基礎杭の存在は契約不適合に該当するものではなく、売主はこの点について契約不適合責任を負わない(あるいは、「売主に対し追完請求、代金減額請求、解除、損害賠償等の一切の責任を問わないこと確認する」)というような特約をしていいかは今後議論になると思います。どうしても文言上は「契約不適合責任を負わない」との禁じ手の文句に抵触することになるからです。
    今後、個々のケースの実務上の積み上げの中で特約が有効となるケース、無効となるケースは出てきますし、多くの議論もなされると思います。その議論の中で、たとえば宅建業者あるいは事業者が売主の場合、売主の責任という観点を回避するため買主(非宅建業者・消費者)側からの容認事項にとどめて処理するという方式もあり得ると思います(すなわち、あえて「売主は契約不適合責任を負わない」あるいは「買主は追加請求権等の契約書不適合に関する請求権等を有しない」とは書かないので、事実の容認でとどめてしまうという方式です)。
    ただし、このスタイルについてもその特約内容に応じた、しかるべき代金減額をしてない場合などは、宅建業法40条、消費者契約法8条の趣旨を投却することを理由とし、または、公序良俗あるいは消費者契約法10条に反するとして無効になる可能性はあると思います。実務が安定するまで時間を要することを覚悟しなければなりません。

Q6契約不適合の要件の1つ「品質」について教えてください。新築建売住宅の売買契約における、「品質」の基準は何になるのでしょうか。たとえば新築というくくりのなかで、内装工事の仕上げに関して、買主の求めている品質と、売主の想定品質のずれへの対応が、安易に買主から見て契約不適合とされるのではと考えています(人の手作りによる造作品の場合、仕上がりに関する美的感覚が人により違うため)。何か良い方策はあるでしょうか。

A6

「瑕疵」とは「契約締結時の契約の趣旨に照らし通常有すべき性状、性能を有しないこと」と定義されることもありました。最高裁平成22年6月1日の判例では、「契約の趣旨」を探求する場合の要素として、契約時の社会通念の他に当事者の合意も斟酌するという点を明確にしました。

今回、「瑕疵担保責任」を「契約不適合」に改めた理由の一つとして、この最高裁判例が根拠とされていますが、(「法制審議会部会資料」75A、9頁)、実務上留意すべきは、下記図のように瑕疵担保責任では第1の判断基準であった契約時の社会通念を前提とした「性状」が、新法の契約不適合制度では、第2の判断基準となり、瑕疵担保責任では、第2の判断基準であった「当事者の合意による性状」が第1の判断基準にせり上がっているということなのです。

瑕疵担保責任と契約不適合責任の構造比較

瑕疵担保責任(旧法)

売買契約の当事者間において目的物がどのように品質・性能を有することが予定されていたかについては

  1. 契約時の社会通念に照らし通常有すべき性状・性能の有しない(第一判断)
  2. 当事者の合意、予定した内容に適合しない(第二判断)

契約不適合責任(新法)

  1. 契約(合意)の内容に適合しない(第一判断)
  2. 合意があいまいなときに社会通念に照らし通常有すべき性状・性能を斟酌する?(第二判断)

(フッ素に関する平成22年6月1日の最高裁判例の構造)

※瑕疵担保責任の第一判断と第二判断の位置づけが、契約不適合では逆転することになる。

そうすると新築住宅の品質についても「契約内容」で決めるということであり、その契約内容は第一義的には当事者の合意で決め、仮に合意がはっきりしない場合には契約時の社会通念で決めるということになると思います。したがって、新築住宅の品質についても以上のように判断がなされますので、新築住宅の品質に関し、将来のトラブルを回避するためには、契約に際して、売主は買主に対して詳細な「設計図書」や「仕様書」を交付する必要があるでしょう。買主はそれを前提に購入するか否か、あるいは代金額を受入れるか否かを決めるでしょうから、それが具体的な当事者の合意内容となります。
ご質問の「良い方策」としては、設計図書にできるだけ詳細に材質や仕様を記入することということになるでしょう。内容工事についても詳細な仕様書の活用が求められますし、逆に完成されたものがその設計図書や仕様書と異なる場合には契約不適合として追完や代金減額、損害賠償、契約解除が主張される可能性があります。この点は従前に増して十分な留意が必要です。

Q7契約不適合という制度がよくわからないので、売主・買主の同意を得て、この売買契約においては旧法の瑕疵担保責任によるという特約をしたいのですが、問題がありますか。

A7

特約自由の原則から一見問題がないように思うかもしれませんが、次のような問題があります。

瑕疵担保制度の下では買主の請求権は損害賠償請求(原則「信頼利益の賠償」)、契約の目的を達しない場合の無催告解除という2つの請求権に限りますが、契約不適合制度上の買主の請求権は追完請求、代金減額請求、催告解除、無催告解除、損害賠償(履行利益)の5つであり、買主にとって原則有利な制度です。仲介業者である質問者も契約不適合制度がわからないということは買主にそのことを十分理解させていない可能性が高いと思われ、後で買主から不十分な仲介をしたというクレームが入る可能性があります。
そればかりか瑕疵担保制度と契約不適合では時効の制度が大きく異なります。瑕疵担保制度では買主は隠れたる瑕疵を知ってから1年以内に損害賠償請求をなし、引越しから10年の時効になるのに対し、契約不適合責任では契約不適合を知ってから1年以内に契約不適合を通知し、5年以内に権利行使をしなければならないことになっています。したがって瑕疵担保制度を前提とした特約をした場合、契約不適合制度の時効制度と相入れないことになり合意の一部無効や対処法にかなりの混乱が予想されますから、やはり旧法の瑕疵担保責任によるという特約は許されないと解します。ちなみに、時効制度は当事者の合意で変更できないとされていることにも留意が必要です。

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