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当社の所有するマンションの入居者の方から、相続について聞かれました。
お父さまが「自宅不動産(土地・建物)2,000万円(時価額)と預金1,000万円」を残して亡くなったそうです。お母さまは先に他界されていて、相続人はその方とお兄さまのお二人とのこと。遺言は残されなかったそうで、今後、兄弟二人の間でどの財産を、誰がどのような割合で相続するかを決める遺産分割協議を行うとのことです。
相談者からは、遺産分割を行う期間について何か制限があるのか?とか尋ねられました。
また、相談者は「お兄さまは20年前にお父さまから自宅購入資金として800万円の生前贈与を受けていることから、今回の遺産分割で均衝をとりたい」と考えているようですが、どうアドバイスしたら良いでしょうか?
※自宅不動産の相続税評価額は時価額よりも低いものとします相談内容の事例は、相続財産が相続税の基礎控除額である4200万円以下の事案となります(計算式:3000万円 + 600万円 × 2人 = 4200万円)。この場合は相続税がかからないため、相続税の申告は必要ありません。
このように相続税の申告が不要となるケースでは「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内」に申告と納税を行わなければならないとする相続税に関する規制が及ばないため、遺産分割協議の成立が遅れがちです。
実際に長期間放置される事案も散見されるところですが、本件のように相続人の一方に特別受益(兄に対する800万円の生前贈与があった)が認められるケースの遺産分割を長期間放置していると、特別受益による不公平を是正したいと考えている相続人が思わぬ不利益を被ることになってしまいます。
具体的には、相続開始から10年経過後は、裁判所は遺産分割に当たって特別受益を考慮することができないとされています。ですから任意の話合いが成立しないケースでは、特別受益による不公平を是正したいと考えている相続人は、相続開始から10年以内に家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てることが必要となります。
令和5年4月1日より前は、遺産分割を行う期間に関する定めは特にありませんでした。そのため、遺産分割がされずに被相続人名義のまま遺産に属する土地が放置され、誰が土地の所有者なのか登記簿を見ても分からない、という弊害が発生していました。
そこで、このような所有者不明土地問題を解消するために法律が改正されることとなり、令和5年4月1日以降は、具体的相続分の割合による遺産分割を求めるためには、相続開始の時から10年を経過する前に家庭裁判所に遺産分割の請求をすることが必要とされることになりました(民法第904条の3)。従って、相続開始の時から10年経過後に家庭裁判所に遺産分割の請求が申し立てられた場合、裁判所は、具体的相続分に従って遺産分割を行うことができず、法定相続分に従って遺産分割を行うことしかできません。
なお、この具体的相続分による遺産分割を求めるための期間制限に関する規制は、令和5年4月1日より前に発生した相続にも適用されます。令和5年4月1日より前に相続が発生している事案については、「相続開始から10年経過時」または「令和5年4月1日から5年経過時」のいずれか遅いときまでに、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたときに限って、具体的相続分に従った遺産分割が可能となります。
具体的相続分とは、特別受益や寄与分といった事情が存在するケースにおいて、相続人間の不公平を是正することを目的とする修正が行われた後に算出される相続分のことです。特別受益や寄与分が認められるケースでは、相続人間の公平を実現するため、法定相続分とは異なる相続分で遺産が分割されることになります。
これまでの説明によって、特別受益や寄与分が認められる場合にこれらを考慮して具体的相続分に従って遺産分割を行う場合と、これらを考慮せずに法定相続分に従って遺産分割を行う場合とでは、各相続人が遺産分割の結果得られる金額が大きく異なることがお分かりいただけたかと思います。
特別受益や寄与分が認められるケースにおいて、遺産分割に当たって自らに有利な立場を維持したい相続人は、対立する相続人との間で任意の話合いがまとまらない場合、具体的相続分に従った遺産分割を実現するために、相続開始の時から10年を経過する前に家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てることが必要となります。この点にご留意ください。
さらに、令和6年4月1日以降、相続や遺贈によって不動産を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられています。正当な理由がないのにその申請を怠ったときは10万円以下の過料に処することとされていますので、この点も併せてご確認ください。
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