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賃貸のお困りQ&A

賃借人の自死と損害賠償義務の範囲

今回のご相談

当社が以前から管理を受託している物件の1室で、最近入居者の自死がありました。

対象の物件は、1Rや1Kの居室が約30戸で構成される賃貸マンションです。また、駅から近く、周辺には単身者用マンションを含めて居住用の物件が多く、入退去の頻度が比較的高いエリアです。

自死の発見時に警察の臨場はあったものの、メディア報道や周辺で噂が立つようなことはありませんでした。また、発見時には死後10日程経過していましたが、寒い時期であったため遺体が腐敗することもなく、居室への影響はフローリング床に跡が多少残る程度でした。

入居者の父が連帯保証人であったほか、入居者の相続人となる遺族からも「必要な弁償をします」という連絡がありました。

このような場合、物件の所有者はどこまでの範囲で損害の賠償を求めることができるのでしょうか。

回答

相談内容の事情を踏まえると、自死に関連して必要かつ合理的な範囲における原状回復費用と、合計で賃料2年分程度の損害賠償請求が認められるでしょう。

もっとも、協議・交渉に当たっては遺族への配慮も心掛けてください。

解説

1. 自死してはならない義務

賃貸借契約上、賃借人には物件で自死をしてはならない義務があるとされています。

その根拠としては、賃借人は賃貸人から借りている物件を善良な管理者の注意をもって保管する義務を負うとされ(民法第601条、第400条)、この義務には物件の価値を物理的・心理的に下げない義務を含むとされているためです。

2. 自死により責任を負う者

賃貸借契約の当事者である賃借人は、死亡しているため自ら責任を負うことができません。そこで責任を負うのは、①賃借人の連帯保証人、および②賃借人の相続人です(以下「賃借人側」と言います)。

すなわち、①連帯保証人が賃貸借契約に基づく賃借人の一切の債務を連帯保証することを合意していた場合、自死に伴う損害賠償責任も連帯保証しなければなりません。ただし、個人の連帯保証人の保証契約は、2020年4月1日に施行された民法(債権法)改正後に合意されたものである場合、極度額の定めがなければ無効とされます(民法第465条の2第2項)。そのため、この場合に連帯保証人が負担する責任は、保証契約に定めた極度額の範囲に限定されることとなります。

②賃借人の相続人は、賃借人の権利義務を包括的に承継するため、賃貸借契約条の義務違反の効果である損害賠償責任まで継承することとなります。

3. 責任の範囲

自死による責任には、大別して原状回復義務と損害賠償責任の2つがあります。

(1) 原状回復義務
一般に、賃借人の過失によって生じた原状回復費用は、必要かつ合理的な範囲で賃借人の負担となります(民法第621条参照)。
賃借人の自死が発生した場合も、前記の通り賃借人の善管注意義務違反、すなわち過失によるものであるため、跡が残ったフローリング床の張替えなど特殊清掃の費用が賃借人側の負担となります。ただし、賃借人側の負担となる費用は必要かつ合理的な範囲に限られるため、自死等の賃借人の帰責事由と関連性のない建具・設備の交換やグレードアップに相当する部分は賃貸人の負担となる点に注意が必要です。
(2) 損害賠償責任
自死が発生した物件は、いわゆる「事故物件」として心理的に嫌悪される物件となり、一定期間、賃貸すること自体および相当賃料での賃貸をすることが著しく困難となります。
賃貸人としては、自死がなければ相当賃料で賃貸することができた物件を、賃貸できない期間が生じたり低額な賃料でしか賃貸することができなくなったりするため、その差額が賃借人側の負う損害賠償責任となります。
過去の裁判例によると、自死によって賃貸が不可能となる期間または賃料が下落する金額・期間は、自死の態様、発見時の状況、物件が単身者用かファミリー用か(単身者用の方が影響が少なく、短期化しやすい)、報道の有無や周囲の耳目を集めたか(広く知られると影響が長期化しやすい)、周辺の人口の流動性(周辺物件の入退去の頻度が高いほど影響が短期化しやすい)等の諸般の事情を総合して考慮されます。
相談内容によると、遺体の腐敗が少なく、周辺に広く知られたものでもなく、かつ物件が単身者用マンションの一室であり周辺の人口の流動性も高い状況です。こうした状況と共通点を有する裁判例である東京地裁 平成27年9月28日判決や東京地裁平成 29年4月14日判決では、賃貸が不可能な期間を1年間程度、賃料を半額としなければ賃貸が不可能な期間を2年間程度として損害額を算定しています。従って、相談内容では、これらを合わせて賃料2年分程度が損害賠償額の水準となります。
(3) 協議・交渉の姿
前記の通り賃借人側に損害賠償責任等があるものの、賃借人側は、賃借人の自死という突然の出来事で傷ついたり動揺したりしていることが多いと思われます。そのため、単なる金銭問題として対応するのではなく、賃借人側に配慮した姿勢で協議・交渉をすることが望ましいでしょう。
また、相談内容のケースとは異なり、賃借人が共用部で自死した事案、物件が居住用ではなく事業用であった事案、自死ではなく事件性がある事案等、自死や物件の状況に応じて結論が異なる可能性があります。そのため、事案に応じて弁護士等の専門家のアドバイスを受けながら対応するのが良いでしょう。
また、自死ではなく自然死については、国土交通省が「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」において告知の要否をまとめています。参考になさってください。

参考法令

●民法第601条

(賃貸借)
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。

●民法第400条

(特定物の引渡しの場合の注意義務)
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、 債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

参考資料

●国土交通省

「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」について
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_tk3_000001_00061.html

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