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建物の所有者が、隣接する建物の壁面に設置された防犯カメラによりプライバシー権が侵害され、転居等を余儀なくさせられたとして、隣接建物の所有者に損害賠償を請求したが、社会通念上受忍限度を超えるものとまではいえないとして、請求が棄却された事例。(東京地裁 令和2年1月27日判決 ウエストロー・ジャパン)
X(原告)の自宅(X宅)とY(被告)の自宅(Y宅)は隣接し、X宅の北西にY宅があった。Xは、X宅玄関から道路に出るのにY宅の南側にある通路が唯一の通路となっており、これを日常的に利用していた。
平成29年3月、YはY宅建替工事をする前にいたずらによる被害等があったとして建物の南側壁面に防犯カメラを設置した。その後、一旦、防犯カメラを撤去したが、7月にXがY宅の南側にあったガレージ入口に石を積み上げるということ等があり、Yは、建替工事が完了した12月に新たに防犯カメラを設置した。
防犯カメラの撮影範囲は、Y宅南側道路、通路入口にあるごみ集積所、通路を挟んだ隣家の軒先、Y宅西側道路及び泥を挟んだ向かいの駐車場であった。
この防犯カメラは、撮影映像を別の記録媒体に保存しない限り常時上書きされる仕組みになっていた。また、カメラはY宅南側壁面に固定されており、特定人を追跡して撮影する機能はなかった。
平成30年3月、Xは、Yが防犯カメラにより日常生活で必要不可欠な場所を監視目的で撮影しているとして、X宅から転居した。
Xは、Yが設置した防犯カメラによりプライバシー権等が侵害されたと主張して、防犯カメラの移設又は撤去、並びに転居費用等の損害、慰謝料52万円余を求める訴訟を提起した。
これに対し、Yは、防犯カメラの設置には必要性がありXのプライバシー権を侵害するものではないと主張した。
一審はXの請求を全て棄却したが、Xはこれを不服として控訴した。
裁判所は、次のとおり判示し、Xの控訴を棄却した。
防犯カメラで、ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、撮影の場所、範囲、態様、目的や必要性のほか、撮影された画像の管理方法等諸般の事情を総合考慮し、被撮影者のプライバシー権をはじめとする人格的利益の侵害が社会生活上受忍限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。
本件カメラは、X容ぼう等を日常的に撮影することが可能であったというべきであり、その設置目的は、Xが数日間にわたって建替え前のY宅のガレージ入口に石を積み上げており、このことが一つのきっかけとなって本件カメラが設置されたと合理的に推認できること、Xの転居後の現在においては本件カメラによる撮影が行われていないことなどに鑑みると、その設置目的には、一般的な防犯のみならず、Xの行動を注視することも含まれていたことは否定し難い。
しかしながら、本件カメラはX宅の玄関や家の内部を撮影するようには設置されていないこと、カメラは固定されており特定人を追跡して撮影する機能はないこと、撮影した映像は上書き保存される仕組みであることからすれば、カメラの設置目的は、XによるYに対する迷惑行為等を防止するというものであったというべきであり、Xの迷惑行為等を防止する目的を達する以上に、Xの日常的な行動を監視する目的があったとまでは認めることができない。
したがって、本件カメラは、Xの容ぼう等を日常的に撮影することが可能なものであるけれども、一般的な防犯目的に加え、Xによる迷惑行為等を防止する目的で設置されたのであって、その設置には一定の必要性が認められる。
そして、これらの事情に加え、本件カメラの撮影範囲である通路は屋外であって全くの私的空間ではないこと、カメラによるXの撮影が約3か月間にとどまること等にも鑑みれば、Xに対するプライバシー権侵害があったことは否定できないものの、その程度は、カメラ設置の動機を与えたXにおいては社会通念上受忍限度を超えるものとまではいえない。
近年、セキュリティ及びプライバシー意識の向上に伴い、防犯カメラの設置について近隣住民等がカメラの設置者に対し、プライバシー権に基づきカメラの撤去や損害賠償請求等を求める事案が多くみられる。
これらの事案にあっては、「2 判決の要旨」の冒頭にあるように、撮影の場所、範囲、態様、目的・必要性、画像の管理方法等の諸般の事情を総合的に考慮し、人格的利益の侵害が社会生活上の受忍限度を超えるかどうかにより判断されている。
本事例のように社会生活上の受忍限度を超えないと判断された事例としては、私道の共有持分者が、私道に接する土地所有者の設置した防犯カメラの撤去等を求めたが、撮影場所、範囲、態様からプライバシー権侵害の程度は社会生活上受忍すべき限度を超えるとは認められないとされ、カメラの撤去が認められなかった事例(東京地判 平31・3・14 ウエストロー・ジャパン)がある。
また、受忍限度を超えるとされた事例としては、区分所有建物の庇等に設置された4台のカメラのうち自宅出入口付近を撮影する1台について、プライバシーの侵害は社内生活上受忍すべき限度を超えているとしてカメラの撤去と慰謝料各10万円が認められた事例(東京高判 平28・4・28 ウエストロー・ジャパン)が見られる。
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