Nスタイルホームは創業13周年を迎えました。
借主Xは、賃貸マンションの303号室に居住し、その隣室の305号室にはYが居住していました(賃貸借契約には、室内での喫煙を禁止する特約はありませんでした)。
令和3年2月、Xは代理人を通じて、Yに通知書を送付しました。通知書には「Yの喫煙によって、Xは受動喫煙による私生活への支障、事業への支障および事業商材、家財への被害並びに健康被害を受けており、受動喫煙に配慮した必要な措置を1週間以内に取ることを求める旨」が記載されていました。
Yは、同月、午後11時ごろに就寝しているため、夜中から未明、早朝に及んでの喫煙行為はしていないこと、ベランダにおける喫煙行為をしていないこと、喫煙場所は室内の換気扇のところであることなどを記載したFaxをXに送信しました。
これを受け、Xは、「平成30年9月以降、Yの受忍限度を超える喫煙によって、Xの事業への支障および事業商材への被害並びに健康被害を受けている。Yに再三にわたり、受忍限度を超える喫煙を控えるように依頼してきたが、Yは聞き入れることなく、かえってXへの配慮なしでの喫煙を増進している。Yによる喫煙は、日常的なものであり、特に夜間や早朝の305号室内での喫煙、窓を開けた状態での喫煙などである」と主張。Yの喫煙行為は、Xに対する不法行為に該当するとして、保管商材の買取弁償費用等に係る損害金113万円余を請求する訴訟を提起しました。
裁判所は、次のように判示して、Xの請求を棄却しました。
Yは喫煙者であり、令和3年3月に電子たばこに変えるまでは、紙巻たばこを吸っていた。Yが吸っている電子たばこは無煙である。Yは、おおむね毎日、午前9時に起床し、午後11時ごろ、就寝している。Yの喫煙の頻度としては、午前9時ごろに2本、午前中にさらに3本、午後1時ごろに2本、夕食後に3または4本程度、1日の合計がおおむね10本である。
Yは、305号室の台所の換気扇近くにおいて、換気扇を回して喫煙することが多く、冬の時期は、ベランダの窓を開けずに喫煙し、春から秋にかけての時期は、ベランダの窓を開けた状態で喫煙することもある。
303号室および305号室の台所の換気扇は、いずれも共用廊下に面した位置にある。
Yは、305号室において、平成30年6月21日以降令和3年3月ごろまでの間は紙巻たばこを、それ以降は電子たばこを、1日に合計10本程度吸い、共用廊下に面した位置の台所の換気扇近くにおいて、換気扇を回して喫煙することもあったということからすると、隣室である303号室の窓や換気口等から室内にYの吸うたばこの臭気が流入することはあったものと推認される。
しかしながら、303号室および305号室の賃貸借契約には、喫煙を禁止する特約はないところ、Yは、自己の居室内でたばこを吸っていたにとどまり、隣室である303号室内の物品に臭気が付着するほどの強い臭気が発生気の計測結果、商材置き場のダストであるとするもののサンプル分析結果を提出するが、ともにYの喫煙行為により生じたものかも不明といわざるを得ない。
Xは、商材の取引先名義の陳述書を提出するが、いずれも「隣室からの電子たばこと思われるにおいが商材に付着し、そのにおいの状況から販売を断念しました」と印字されているところ、その取引の時期が、Yが紙巻たばこから電子たばこに変更した時期に整合しない上、陳述書の末尾に署名ないし記名押印があるのみであることからすると、これらは、前記判断に影響を与えるものとはいえない。
以上により、Yの喫煙行為が、社会通念上、許容し得る範囲を超え、違法性があるものであるとまでは認められない(東京地裁 令和4年3月16日判決)
当機構の電話相談でも、共同住宅のベランダ等での喫煙による近隣居住者から煙害についての相談を受けることがあります。しかし、本件のように煙害の物的被害による損害賠償請求提起となる事例は珍しいと思われます。
本件においては、喫煙禁止の特約のない室内での喫煙であり、その臭気が共用廊下の換気扇を通じて隣室に流入することはあったかもしれませんが、隣室の室内物品に臭気が付着するほどの臭気の発生は認められなかったとされました。また臭気の発生は、社会通念上、許容範囲を超えるものではなく、違法性があるとは認められませんでした。
本件については、原告が主張する損害の立証と被告の行為との因果関係の立証が不十分であったことから、原告請求の棄却も妥当と思われます。
たばこの煙は、人によって、臭気等の感じ方に差があるほか、アレルギー等により健康被害につながる場合もあり、当事者間で喫煙時間・場所等を十分に意識し、お互いに配慮のある対応を取っていくことが望まれます。仲介や管理を行う事業者は、居住者からの相談や苦情が入る場合も想定されますので、その際には本事例や類似事例を参考にご対応いただければと思います。
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