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最近取引をしたお客さまは、マンション一棟を所有していて、いわゆるサブリースの方式により、他の不動産会社(サブリース会社)に同物件を賃貸しています。しかし、同賃貸借契約の賃料が安いので、サブリース会社との賃貸借契約を更新拒絶により終了させ、サブリース会社が賃貸している転借人との賃貸借契約を引き継ぎ、直接賃料を取得していきたいそうです。
サブリース会社との賃貸借契約を更新拒絶により終了させられるのでしょうか?
「賃料が安い」という事情だけでは、借地借家法第28条の正当事由は認められず、サブリース会社との賃貸借契約を更新拒絶により終了させることはできない可能性が高いと考えられます。
(1) 建物の普通賃貸借契約において、賃貸人は、期間満了の1年前から6カ月前までの間に、賃借人に対して、更新拒絶の通知をすることができます(借地借家法第26条1項)。ただし、更新拒絶に正当事由がなければ、賃貸人は、賃貸借契約を終了させることができません(同法第28条)
これは、賃貸人からの更新拒絶の通知だけで賃貸借契約を終了するとなると、以後、賃借人は生活や営業の基盤を失うこととなり、あまりに不利益を被るため、賃借人保護の観点から設けられた規定です。
(2) 正当事由の有無は、賃貸人・賃借人双方の利害関係その他諸般の事情を総合的に考慮して判断されます。
考慮される要素としては、
があります。このうち、①と②が基本的な要素として比較衡量され、③から⑥は補充的な要素として考慮されます。
すなわち、①②を比較衡量した結果、①が②を大きく上回っていれば、正当事由があると直ちに判断されます。逆に、①が存在しない、あるいはわずかしかないという場合は、正当事由がないと判断されます。
(3) 他方、①と②の必要性を比較衡量した結果、①はある程度存在するものの、②の必要性をより下回っている場合は、さらに補充的要素として、③、④、⑤、⑥について考慮します。
補充的要素を考慮した結果、賃貸人が賃借人に対して⑥立退料を相当額支払うことを条件として、正当事由が認められることもあります。
(1) ビルやマンションの建物所有者が、不動産会社(サブリース会社)に一括して賃貸し(マスターリース契約)、サブリース会社が転借人に転貸することにより、建物所有者とサブリース会社の双方が収益を獲得することを目的として行われるのがサブリース事業ですが、サブリース事業は、建物所有者にとっては、
にメリットがあります。一方、サブリース会社にとっては、建物の建築費用などの多大な資金を自ら調達することなく、賃貸事業を行うことができる点にメリットがあります。
(2) サブリース事業は建物所有者とサブリース会社の共同事業に類するものであるため、建物所有者とサブリース会社間のマスターリース契約には、借地借家法が適用されていないのではないか、ということがかつて問題になったことがあります。
この問題は、サブリース会社が将来の賃料上昇を見込んで賃料保証をしてサブリース事業を行っていたところ、バブル経済の崩壊により、賃料相場が大幅に下落したため、サブリース会社が建物所有者に対して相次いで賃料減額請求を行ったことから、社会問題にも発展しました。サブリース会社の賃料減額請求が認められたことで、建物の建築資金を金融機関から借り入れていた建物所有者が返済に窮してしまい、社会問題化してしまったのです。
この問題について、最高裁は、「マスターリース契約は建物の賃貸借契約であることが明らかであるから、借地借家法が適用される」と判断しました(最高裁 平成15年10月21日判決など)。
サブリース事業におけるマスターリース契約にも借地借家法が適用されるため、賃貸人からの更新拒絶には正当事由の具備が必要となります。
もっとも、マスターリース契約における賃借人は、賃貸借の専門家である不動産会社であるため、通常より賃借人保護の必要性が低いことから、正当事由の判断において、賃貸人に有利となるような特段の考慮が認められないかが問題になります。
しかし、東京地裁 令和3年5月20日判決は、「いわゆるサブリースの方式が採用されていること、賃借人が事業者であること」などの事情を考慮しても、「特段異なる判断基準を採用すべき合理的な理由は見当たらない」と述べるなど、多くの裁判例では、サブリース事業といえども、正当事由の判断において特段の考慮をする必要はないと判断されています。
本件では、賃貸人は、サブリース会社との賃貸借契約の賃料が安いので、更新拒絶により賃貸借契約を終了させたいとしていますが、「賃料が安い」という事情だけでは、正当事由の基本的な要素である①賃貸人が建物の使用を必要とする事情が存在しない、あるいはわずかしかないと言わざるを得ません。
そのため、借地借家法第28条の正当事由は認められず、サブリース会社と賃貸借契約を更新拒絶により終了させることはできない可能性が高いと考えられます。
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