Nスタイルホームは創業13周年を迎えました。
駐車場付きの戸建住宅を探していた買主Xは、建築プラン図面上、ビルトイン型車庫部分に駐車スペースのサイズ例として大型ミニバンとの記載のある建築条件付き物件の販売チラシ(以下、「本件チラシ」という)を見て、平成26年1月、本件チラシを作成した媒介事業者Yの媒介により、売主事業者A(訴外)との間で、売買価格5,980万円とする売買契約を締結しました。
本件土地(私道負担部分や隅切り部分を除く)は20坪ほどであり、北側は幅員約2.86mの私道と、西側は幅員約3.36mの公道と、それぞれ接しています。
Xの主張によれば、契約前、XはYの担当者に大型ミニバンの入出庫について問い合わせたところ、「間違いなく入庫できる」として、車庫入れは、本件不動産の北側私道上を東に進入し、そこからバックで入庫すること、そのため、玄関階段北西部分をカットしているとの回答だったそうです(ただしYは否認)。
Xは、同年6月、建物が完成した本件物件の引渡しを受けましたが、本車庫自体には大型ミニバンを収容できるスペースはあるものの、実際には周辺道路の現況との関係で、Xの父が所有する前記クラスよりやや小さいミニバン(中型ミニバン)ですら入庫ができない状況でした。
Xは、結局、小型の自動車を駐車していましたが、5年後の令和元年11月に至って、大型ミニバンが入庫できる不動産を購入するとの目的が達成できなかったことについて、Yの説明義務違反があったと主張。債務不履行に基づく損害賠償として、本件不動産の売買代金相当額5,980万円の一部である2,000万円の損害賠償請求訴訟を提起しました。
裁判所は次のように判示し、Xの請求を棄却しました(控訴審でも棄却されています)。
本件車庫は、大型ミニバンを収容することのできる面積を備えているが、北側私道および西側公道との関係で、中型ミニバンを運転して駐車することもできないことが認められる。
しかし、本件売買契約締結時の重要事項説明書においては、「本物件の車庫スペースに駐車する車種は、買主の判断によるものとします。なお、本物件の車庫スペースには一部の車種が駐車できない場合があります。また、本物件までの道路事情などにより利用が制限される場合があり、入出庫の際、切り返しが数回必要になることもあります」との記載があり、XおよびXの父に対し、当該記載が口頭でも説明されている。
このような重要事項説明書の記載は、本件車庫には一部の車種が駐車できない場合があることや、本件不動産周辺の道路事情によって、入出庫を含む利用が制限される場合があることを説明するものであり、また、その説明を受けた者は、通常、その説明内容を理解できるというべきである。
そして、このような重要事項説明書の説明内容は、北側私道および西側公道の現況が理由で、中型ミニバンを本件車庫に駐車することができないという状況と異なる説明をするものとは認められない。
そうすると、YはXに対し、本件不動産について、車種の大きさによっては本件車庫に駐車できない場合があること、また、道路事情によって、入出庫を含む本件車庫の利用が制限される場合があることを十分に説明したというべきである。
Yが、本件不動産を建築条件付き土地として一般向けに販売するための本件チラシおよびXの父から本件不動産に関する最初の照会を受けて送信したメールにおいて、本件不動産の車庫が大型ミニバンである旨がYによって記載されていたことは事実である。
しかし、これは、予定される建物の参考建築プランであることが明示されており、本件不動産の車庫に大型ミニバンの自動車が駐車できることを確定的に述べるものではない。
また、本件不動産の車庫が大型ミニバンである旨の前記の記載は、本件不動産の周辺の道路状況とは無関係に、本件車庫に大型ミニバンを入出庫できることを説明するものということもできない。
そうすると、本件チラシやメールに前記の記載があることをもって、本件売買契約の締結に際して、Yから、本件車庫に大型ミニバンの駐車が可能であるとの説明があったと解することはできない。
以上の事情を考慮すれば、Yが、本件売買契約締結に際して、Xに対し、本件車庫について負う説明義務に違反した説明を行ったとは認めることはできない(東京地裁 令和4年3月25日判決)。
地価が高い地域において、戸建住宅の敷地は年々狭くなる傾向が見受けられます。居住スペースの確保と駐車スペースの確保は相反するニーズです。敷地が狭小になるほどその両立が難しくなります。また本事例のように駐車スペース自体には問題がなくても、前面道路の幅員や電柱、道路標識等の障害物のために、入出庫するには何回も細かい切り返しが必要となったり、事実上入出庫が不可能となるケースが生じ得ます。
車を所有する買主にとって駐車場にストレスなく入出庫できるかどうかは住宅選びの重要な要素となるだけに、数cmの差であってもトラブルにつながりやすいといえるでしょう。当機構の特定紛争処理事業(ADR)においても、未完成新築住宅の駐車スペースに関する紛争は過去にも多数あり、典型的な紛争事例となっています。
売主事業者・媒介事業者としては、本事例のようなトラブルが現実に多いことを認識の上、本事例の重要事項説明書のような記載を設けるだけでなく、広告や商談時から慎重な説明を行っていくことが必要でしょう。
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