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賃貸のお困りQ&A

投資物件の買主が募集家賃を実際家賃と誤認したことについて媒介事業者に説明義務違反を認めた事例

【ケース】

媒介事業者であるXは、売主Aからの投資物件(不動産1および2)の売却依頼を受け、宅建事業者である買主Yに紹介しました。不動産2は、賃貸業者Bに賃貸され、Bはこれを第三者に転貸借していました。

Xは、Yより、転借人の月額賃料(先家賃)等を照会され、Bに確認しましたが、売買契約成立後でなければ先家賃は開示できないとの回答であったため、募集家賃が月額8万9000円とのAからの回答を受けて、その旨をYへ回答しました。

平成29年2月、Yは、不動産1および2について、Aと売買契約を、Xと媒介契約を媒介報酬100万で締結しました。

売買契約締結後、Xは、Bから先家賃が月額8万1000円との回答を得て、Yに伝えましたが、苦情を申し入れられたため、Yに謝罪しました。同年3月、YとAとの残金決済が完了しましたが、同年4月、Yは、Xに対して媒介契約を解除する旨、同年9月には、YのXに対する損害賠償請求権をXの媒介報酬額と相殺する意思表示をしたことから、Xは、媒介報酬を求める本件訴訟を提起しました。これに対し、Yは、Xへ不実告知等による228万円の損害賠償を求める反訴をしました。

【解説】

裁判所は、次の通り判示し、Xの請求を一部認容しました。

  1. Yは、Aから聴取した募集家賃の意味を明らかにするなど対策を講ずることなく、さも先家賃であるかのように回答しており、Yが募集家賃を先家賃と誤信しても不合理ではないから、Xは、Yに対して、重要事項説明の義務違反があり、債務不履行があったと認められる。
  2. 本件媒介契約において、Xの主たる債務は、売買契約の成立に向けて努力することであるが、YとAの間で売買契約が締結され、決済も完了しているから主たる債務は履行されている。そして、説明義務が媒介契約における主たる債務ではなく、不随義務なものと解されることに照らすと、その不履行があったとしても、売買契約の成立に至った場合には、解除権を生ぜしめるものとは解されない。
  3. 以上によれば、XのYに対する報酬請求権は発生し、Yによる解除の意思表示によっても消滅しない。ただし、Yが募集家賃と本件転貸借との差額である月額8000円の将来的な賃料相当額は、Xの説明義務違反と相当因果関係がある損害と評価でき、転貸借契約の継続期間を考慮すると35万円余と認められる(東京地裁 平成30年10月24日判決)。

【総評】

本判決では、XとYとの間に、先家賃を説明義務の対象とする黙示の合意があったと認定した上で、XがYに対して、Aから確認した募集家賃を先家賃と誤認させたことが認められており、Xは、正確な先家賃の額の回答が困難である場合には、Aから聴取した募集家賃の意味を明らかにするなどの回答を行い、何らかの対策を講ずるべきとしています。媒介事業者が、本件のようなトラブルを回避するためには、買主に対し、丁寧かつ明確な説明を心がけなければならないことを改めて考えさせられ、参考にしていただきたい事案です。

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