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建築基準法に違反する建物であったことの説明をしなかった媒介事業者に対する買主の損害賠償請求が棄却された事例

【ケース】

買主Xは宅地建物取引事業者Yの媒介により、本件土地建物を、売主Aと平成8年2月に代金1億8200万円で購入する契約を締結し、同年4月に引渡しを受けました。

本件建物は、昭和43年9月に新築、平成3年1月に増築し、1階は店舗、2階は賃貸マンション、3階は住宅として使用され、建築確認を受けず、建ぺい率(60%)の制限を新築時8.85m2、増築時49.44m2超過していました。

売買に際してYが行った重要事項説明書には、本件建物が建ぺい率に違反し建築確認を受けず、違反によって買主に生じ得る不利益の有無についての記載・説明はされていませんでした。

平成27年8月に本件土地建物をBに代金7300万円で売却したXは、Yに対し、建築基準法に違反する建物であり、そのリスクについての説明義務違反があるとして、購入・売却価額および賃貸事業収支等の差額について、損害賠償の請求をしました。

【解説】

裁判所は次の通りに判示し、Xの請求を棄却しました。

  1. 本件違反事実についてYが説明したとする形跡は見られず、本件重要事項説明書に、本件違反事実は記載されていないことから、Yに説明義務違反があったと認められる。
    しかし、本件売買契約を締結したことによって、Xは、本件土地建物の購入代金を支出する反面、その所有権を取得しており、他方、その時点においては、特定行政庁から本件建物の除却・是正措置の命令を受けたり、建物を再築しようとしたが現状と同規模の建物を建築することができなかったりするなどの、本件建物が建築基準法に違反していることにより不利益は発生しておらず、損害は現実化していない。
  2. また、一般に収益物件を購入する者は、不動産市況を踏まえ、支出と収益を予測して事業を遂行するのであって、当該事業が成功するかは、予測の正確性のほか、広告・宣伝や営業活動によるところが小さくなく、購入者の判断や行為に左右されるものである。
    そうすると、収益物件が売却されるまでの間に、仲介事業者の説明義務違反によって購入者が知りえなかった不利益が現実化しているような場合はともかく、そうでない限り、説明義務違反と購入者の損害の間に相当因果関係を認めることはできない。
  3. まだ、Xが売却した時点において、本件建物は新築時から47年、増築時から24年が経過していたことから評価は無価値と考えられ、本件不動産について、本件各違反事実がなければ売却できたであろう価額が実際の売却代金を上回っていたということはできず、その差額を認めることはできない。
  4. 従って、本件においてXの損害を認めることはできず、Xの請求に理由がない(東京地裁 平成30年9月21日判決)。

【総評】

宅地建物取引事業者は、重要事項説明において、確認済証・検査済証の有無の調査・記載を確実に行い、建築基準法の違反が判明した場合は、その内容だけでなく予測されるリスクについても記載・説明することが必要です。媒介事業者が、本件のようなトラブルを回避するためには、買主に対し、丁寧かつ明確な説明を心がける必要があり、参考にしていただきたい事案です。

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