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買主Xは、令和3年3月、宅建事業者の売主Yから本件マンション101号室の区分所有権(本件建物)を、事務所利用の目的で、880万円にて購入する売買契約を締結し、同年4月に代金を支払いました。
Xは、同年5月、Yにリフォーム工事を発注し、その工事中に本件マンション1階部分(101号室、102号室)には水道メーターが共同で一つしか設置されておらず、水道契約者は102号室所有者になっており、個別の水道契約にするのは困難であることが判明しました。
令和4年1月、XがYに対して契約不適合による修補請求、代金減額請求を行ったところ、同年6月、Yが29万円余の費用を負担して子メーター設置工事(101号室トイレ床下の水道元栓から共用部ごみ置場に配管を引き込み、子メーターを設置する工事)が行われました。
また、Xと102号室所有者の間では、Xが水道契約者となって使用量を測定し、102号室分の費用回収を行うことが合意されました。
同年10月、Xは、Yに対し、契約不適合による売買代金減額または債務不履行に基づく損害賠償等(子メーター設置工事による休業損害8万円余、水道使用・費用支払いに関する合意文章作成費用27万円余、将来における水道使用量測定・共有者への費用回収雑務147万円余、子メーターの維持管理費用30万円余、マンションの資産価値減少527万円余)を求めて提訴しました。
裁判所は、次のように判示して、Xの請求を一部認容しました。
Yは、本件売買契約において、個別の水道メーターを設置することができない本件建物を売却したことについて契約上の賠償責任が発生すること自体は争っていないことから、本件の争点は、損害額となる。
Xは、子メーター設置工事によるほこりなどの除去に8日間かかり、体調不良で2日間病院を受診したと主張する。しかし、Xが工事の際や、その後本件訴訟提起に至るまでYとの間に、工事によるほこりなどについて言及していないことなどからすると、Xが主張する事実を認めることはできない。
Xは、Yから、水道メーターが個別に設置されているという前提で、880万円を支払って本件建物を購入したところ、本件建物にはそれが設置されておらず、その結果、102号室と水道局に対する契約を同一にすることに伴う協議や料金の回収、子メーターの管理等の各種の負担を余儀なくされたものである。
Xが被ったこれらの負担は、本件売買契約の契約不適合による損害であると解されるものの、Xは同時に、それによる不動産価値の下落についても損害として主張している。Xが主張する不動産価値の下落とは、本件建物に個別の水道契約がなく、子メーターによる検針、102号室の所有者との協議等が必要になることを理由とする価値の下落であるから、Xが、不動産価値の下落分について損害の填補を受けることは、Xが被った子メーターの管理等の負担について填補を受けることと同義である。本件においては、Xが被った負担および今後想定されるべき負担を含めて不動産価値の下落の点で考慮することとし、子メーターの管理等の損害をそれとは別の独立した損害としてはみないものとする。
水道メーターが子メーターであることに伴うXの負担は、2カ月に1度、水道料金の請求が水道局から届いたら、子メーターを検針し、102号室の不動産の管理会社に対して請求書を作成し、当該会社に連絡して支払いを受けているというものであり、互いに基本料金内の使用量であることから、現在までは料金を折半しているという状況である。これらは一定の負担ではあるものの、水道の利用等の本件建物の基本的機能が害されているわけではなく、その減価の程度が、Xが主張するように売買価格のおよそ半分程度に及ぶほど大きいものとは解されない。
以上の点、X が実際に被った102号室の所有者との協議、子メーターの管理、水道料の請求等の負担も考慮すると、不動産の価値の下落分は1割程度とみることが相当であり、売買代金880万円の1割である88万円がXの損害であるといえる。
従って、Yは、Xに対し、契約不適合による売買代金減額の結果として88万円を支払うべきである(東京地裁 令和5年8月30日判決)。
※ Xは本件判決を不服として控訴しましたが、控訴審において解決金l00万円にて和解しています。
本件は、同じ階の区分所有建物の水道配管に個別の水道メーターが設置されておらず、個別に水道契約ができなかったことから、買主が売主に対して契約不適合責任を求めた事例です。水道メーターが個別に設置されている前提で売買契約が締結されたものの、実際は個別の水道メーターがなく、契約不適合により買主が被った隣室所有者との協議、子メーター管理、水道料請求などの負担を信頼利益として捉え、売買代金減額(損害額)が判断されており、実務上参考になるものと思われます。
売買や請負において、契約に基づいて引き渡された目的物が、種類、品質または数量に関して契約の内容に適合していないことをいう。
例えば、土地の地目が異なっていれば種類が不適合であるし、建物の耐震強度が不足していれば品質の不適合となる。また、受け取った品物の個数が違えば数の不適合である。
目的物が不動産の場合には、品質に関する不適合の判断が問題となる。「住み心地」のような品質は評価が難しいし、耐震性、耐火性などは設計や工事記録を精査しないと分からない。あるいは、既存住宅などについては経年的な品質の劣化をも考慮しなければならない。住宅性能評価や住宅インスペクションを実施することは契約不適合に対応するためにも有効である。
また、不動産売買において契約表示面積と実測面積の間に過不足があったときには、契約において実測面積を基礎に代金額を定めるとの合意がある場合に契約不適合となる。
契約不適合の場合には、買主・注文者は売主・請負人に対して、履行の追完請求(補修や代替物等の引渡請求)、代金減額請求、報酬減額請求、損害賠償請求または契約解除権の行使をすることができる。
不動産用語集R.E.wordsより一部抜粋
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