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「老人保健施設内での転落死の賠償裁判で、一審と二審で判決が逆転したケースがあると聞きました。詳しく教えてください。」
A(昭和2年生)は平成20年頃から認知機能が低下し、平成22年に医師から認知症と診断され、同年10月に介護老人保健施設であるBと通院リハビリ契約を結び通院。その後症状が進行し、認知症専門のあるBに短期入所し介護を受けるため、短期入所療養介護契約を結び、平成24年7月18日から24日まで入所。介護計画書には「Aには認知症の見当識障害である帰宅願望が見られる」と注記がありました。
同年8月3日から10日までの期間、再度AはBに入所。この間、幾度か帰宅願望を表しました。7日午後5時50分頃には、1階ロビーに現れ「自宅に帰る」と言い、20分程ロビーで過ごしました。その後、居室のある2階に戻り、部屋に誘導されると直ぐ居室から出て来ることを繰り返し、2階の廊下をゆっくり歩行し続けました。
午後8時15分頃、職員がAに就寝を促そうとしましたが所在が不明。8時35分頃、1階植込みに倒れているAが発見されました。Aは2階の食堂の窓を210mm開放し、外に出て雨どい伝いに降りようとして落下。病院搬送後の8日2時7分、骨盤骨折を原因とする出血性ショックにより死亡と判明。
Aの相続人3名(子)中2名が原告となり、Aの死亡はBの安全配慮義務違反によるとし、債務不履行または不法行為(使用者責任)に基づき、Aに生じた損害のうち原告らの相続分の支払いを求めてBを提訴。
一審は、「Aが本件窓から外に出ることの予見は不可能であった」としてBの責任を否定し原告らの請求を全部棄却しました(東京地裁 平成26年9月11日判決)。原告らが控訴。工作物責任(民法717条1項)の主張を追加すると、二審は「窓は4枚1組のサッシ窓で両脇2枚は固定、内側2枚をそれぞれ75mmまでしか開放できないようにするウィンドロック錠の設置があるが、これは中間止めの器具ではなくサッシの本錠を締めた際の補助錠に過ぎない。そのため、窓を同錠から離し普通の力でコツコツと窓を同錠に当てて行くと容易に移動し、窓は短時間で開放する」「Bの責任の有無はAが窓から外に出たことに係る責任すなわち窓の開放制限装置に係る義務違反ないし瑕疵の有無に帰する」「本件制限装置は認知症専門棟の食堂にある制限装置としては不適切で通常有すべき安全性を欠いたものと認めるのが相当である」と、土地の工作物設置の瑕疵を糾弾。Bの過失相殺の抗弁を退け、治療費10万弱、葬儀費用150万、死亡慰謝料2000万、逸失利益(年金等)504万余のうち控訴人相続額と弁護士費用一人90万との合計である各金978万1497円と遅延利息の支払いを命じました(東京高裁 平成28年3月23日判決)。不動産を所有し運用する場合、工作物責任は所有者については免責事由がない厳しい責任です(民法717条1項但書)。不動産会社としてはこの責任は特に注意を要します。
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